事例紹介

事例紹介

一覧に戻る

「野菜は自然語のかたまり」。無農薬無化学肥料農業をつらぬくホールアース農場が大切にしている「伝える農業」とは

交流・体験
「野菜は自然語のかたまり」。無農薬無化学肥料農業をつらぬくホールアース農場が大切にしている「伝える農業」とは
活動団体 ホールアース自然学校
活動場所 静岡県富士宮市

1982年に富士宮市に設立された「ホールアース自然学校」。キャンプやエコツアーなどの自然体験事業や環境学習プログラムを中心に、現在は企業の環境活動や社員研修支援、行政との協働や国際協力、無農薬無化学肥料農業や野生鳥獣対策、また地域づくり支援など活動の幅を広げています。

今回は、数ある活動の中からホールアース農場の活動において、「関係人口」の切り口を中心に、NPO法人ホールアース研究所の代表理事を務める山崎 宏さんにお話を伺いました。

ホールアース農場は富士山が一望できる気持ちの良いロケーション(写真提供=ホールアース農場)

ホールアース農場の広さは2.5ヘクタール(1ヘクタールは100メートル×100メートル)。富士宮の柚野地域で、少量多品目、80種類ほどの野菜とお米を育てています。

農場のこだわりは、無農薬、無化学肥料栽培。
「とんでもない宣言をしてしまった」と笑う山崎さんですが、まずは美味しいものを届けられるようにと、日々お米や野菜、そして自然に向き合い続けています。

「野菜は自然語のかたまり」

2011年の設立時より農場長を務めるのは、それまで富士山ガイドなどを行っていた平野達也さん。育てたお米や野菜を販売するだけでなく、一つ一つの作物の向こう側にある物語、また価値や意味を語ることができるのは、平野さんがもともと、「自然語で話そう」を大切なメッセージとしている、ホールアース自然学校のインタープリターのひとりだからこそ。

「野菜は自然語のかたまり」
一番右が農場長の平野さん。インタープリターとは、ものを語らない自然が持っているメッセージや意味、価値を代弁する通訳のこと。(写真提供=ホールアース農場)

山崎さんは「自然語を勉強するのに、農業は最適」と話します。

大切に育てていたカブが虫に喰われてしまい、全滅してしまったことがあったのだそう。
しかし、それらの野菜は市場に出ることはないので、一般消費者がその様子を知ることはありません。

「虫や自然と折り合いをつけながら有機農業をやっている物語や背景を、農業者の中だけに溜め込むのではなく、インタープリターが語ることで、目の前にある一つの野菜のもつ意味や価値が変わってくると思うんですよね」と山崎さん。

「野菜は自然語のかたまり」と捉え、まさに野菜の向こう側にある物語や意味を、大人にも子どもにも分かりやすく伝えること。「伝える農業」をホールアース農場では大切にしています。

農場長の想いから実現した「農カフェ」

農場長の想いから実現した「農カフェ」

ホールアース農場には「農カフェ」という、畑の横のカフェがあります。
※現在は不定期での営業です。SNS等で告知します。(写真提供=ホールアース農場)

「いつの日か飲食をやるとは思っていましたが、農場長の判断が早くて驚きました」と山崎さん。

自分たちが作った野菜を、採ったその場所で食べて欲しい。作った人が自ら提供し、目の前で食べている人と出会える場所を作りたい。
農カフェの実現に至った背景には、このような農場長の熱い想いがあったのだそう。

 

人気のメニューは農場のお野菜を使って作るピザ。オープン日などの情報は、SNSを通じて発信しています。(写真提供=ホールアース農場)

農地が隣接してるので、例えば、今食べた野菜がどのように畑になってるのかを実際に見て知ることができるのも農カフェの魅力の一つです。

「実際に今食べている野菜の物語をインタープリターが説明し、育った場所で食べてもらうことで、“美味しい”の意味が変わったり、いただきますの価値が変わってくると考えています」。

まさに、ホールアース農場が大事にしている「伝える農業」をカタチにしたものがこの農カフェ。「今食べている人参が畑でどのようになっているかを、テクテク歩いて子どもたちに紹介できるのも、畑の隣で直接提供しているからこそ。手前味噌ながらこれは良い体験だと思っています」と山崎さんも顔をほころばせます。

本気の作業を手伝う「援農」という関わり方

また農カフェだけでなく、「援農」というホールアース農場との関わり方もあります。

本気の作業を手伝う「援農」という関わり方
ホールアース農場で採れた新鮮な野菜(写真提供=ホールアース農場)

援農とは、まさに農作業の手助けをすること。その中でもホールアース農場では、体験のための作業を用意するのではなく、野菜やお米ができるまでの裏側にある、メインじゃない作業も体験してもらうことも大切にしています。

「例えば収穫後の畑に残った、完全に枯れた茎や葉を集める作業など、普段決して表に出ることはない、農家が普段人知れずやっている作業も援農でやっていただいています」。

収穫の裏側にはたくさんの作業があることも、学びや気づきとして知ってもらいたいと話す山崎さん。

 

また、援農時には畑で作業をして感じたことの対話も大事にしているのだそう。
「それぞれみんなが畑で作業したら感じることは違うので、同じ体験をしていても感想が全然違うんですよね。私はこう感じたよ、あなたはどう?という感じで、僕らスタッフや、一緒に体験した人とおしゃべりを通じて感動を分かち合う時間を大切にしています。」

 

感想や対話は感動のお裾分け。この対話をきっかけに、明日からどんな暮らしをしようかを考えるきっかけにしてほしいと、山崎さん。(写真提供=ホールアース農場)

援農は、年4~5回ほどホールアース農場のSNSで募集をしています。今は人数制限があるのですぐに集まることも多いそうですが、県内からだけでなく、この援農をきっかけにスタッフに会いにきたり、ホールアース自然学校のプログラムに参加される方もいるそうです。

まずは一歩、自然の中に足を踏みだす

「とにかく自然に触れることで、自分自身に大小何かしらの変化が起こります。まずは自然の中に足を踏みだして欲しい」と山崎さん。

富士山の麓でスクスクと育った野菜たちや畑との触れ合い・出会いのみならず、そこに集う人やスタッフさんと感動を分かち合う経験は、心を大きく動かす経験になると思います。

まずは興味のあるプログラムから、自然の中に足を踏み出してみてはいかがでしょうか。

 

 

(文・写真)静岡県関係人口ライター