
- 活動団体
- 宇津ノ谷倶楽部
- 活動場所
- 静岡市
静岡市駿河区宇津ノ谷地区は、旧東海道を往来する旅人たちが休憩した歴史の面影を残す、静かな山あいの地域です。
風情ある石畳の道が続き、豊臣秀吉の陣羽織を保存した「御羽織屋」や蔦の細道、レンガ造りのトンネルなど名所旧跡が多く残され、その街並みは「景観計画重点地区」にも指定されています。
しかし、現在の宇津ノ谷は40軒ほどの小さな集落となり、高齢化が進んで、地域に小学生が1人も住んでいない状況です。
そんな宇津ノ谷で、地域の伝統文化を守りながら活性化に取り組んでいる団体があります。
地域外の視点を取り入れ、新たなアイデアで宇津ノ谷の魅力を発信する「宇津ノ谷倶楽部」を取材しました。
目次
1)まちづくり講座をきっかけに結成された「宇津ノ谷倶楽部」
2)宿場と街道に息づく宇津ノ谷の歴史・文化
3)慶龍寺の地蔵盆と縁日気分
4)宇津ノ谷の魅力を次世代へつなぐために
まちづくり講座をきっかけに結成された「宇津ノ谷倶楽部」
宇津ノ谷倶楽部は、2015年に静岡市の「地域デザインカレッジ・コミュニティコース」を受講したメンバー有志によって結成されました。
座学だけでなく、地域での実践を通じて宇津ノ谷の魅力に触れ、地域の未来に役立つ活動をしたいと、地域住民との協力、相互支援のもと、宇津ノ谷の魅力を再確認できるようなイベントを企画・運営をしています。

取材のため「道の駅宇津ノ谷峠」に集まってくれた宇津ノ谷倶楽部の3名にお話を聞くと、
会長の近藤さん(写真左)は、地域の現状を学ぶ中で「誰かが旗を振らなければ、宇津ノ谷の文化が衰退してしまう。自身が地域のまちづくり協議会で培った経験をいかして、人とのつながりを生み出せたら」と、活動を開始したそうです。
副会長の内山さん(写真右)は、元市役所職員。定年後に地域防災にも取り組む中、宇津ノ谷倶楽部の取り組みにも積極的に関わっています。
インドネシアや・タイなど海外経験を経て日本に帰国した事務局長の鷲巣さん(写真中央)は、「日本の地域文化の価値を見直す中で宇津ノ谷に関心を持った」と言います。

3名以外にも市内在住のメンバーを中心に、役者やカメラマン、講談師、山歩き愛好家など、多様なキャリアや趣味を持つ20名ほどが活動中です。
※地域デザインカレッジは、市民自治によるまちづくりを実現するため静岡市が開催する人材養成講座
宿場と街道に息づく宇津ノ谷の歴史・文化

宇津ノ谷倶楽部ではこれまでに、まちあるきツアー、たけのこ掘り、秀吉甲冑隊行列、海外の参加者を交えた座禅&餅つき体験など、宇津ノ谷をフィールドに学びや気づきのあるイベントを展開してきました。
(中でも、宇津ノ谷明治トンネルで行った雅楽の演奏会には100人ほどの参加者があったそうです)
国の登録有形文化財に登録されている明治トンネルを、実際に案内してもらいました。

宇津ノ谷の明治トンネルは、日本初のレンガ造り有料トンネルで、当時としては最先端の建築技術が用いられます。
トンネルの内部はひんやりとしており、レンガを積み上げたアーチ構造と灯りが幻想的な雰囲気。現在は歩行者専用の観光スポットとして整備され、宇津ノ谷の歴史を感じられる場所となっています。

慶龍寺の地蔵盆と縁日気分
取材当日は、宇津ノ谷の伝統行事の一つに「地蔵盆」が行なわれる好タイミング。地蔵盆は各地で行われますが、慶龍寺の地蔵盆にはかつて静岡市内の初盆を迎えた家がこぞって訪れたという歴史もあるほどで、地域の信仰と文化を象徴する大切なイベントです。

名物「十団子」は、地蔵が鬼を退治したという伝説にちなんだ厄除けの縁起物で、かつては東海道を行き交う人々が旅の安全を祈り買い求めたといいます。(小さな10粒の団子を数珠つなぎにしたもので現在は飾り用として販売)
宇津ノ谷倶楽部では、地蔵盆に合わせ地域を離れた人が帰省するきっかけや、地域外からの人を呼び込めればと、「縁日気分」という企画を実施し、少しでも古き良き時代の情緒を味わえるよう、夕涼みのまち歩きや紙芝居を行っています。

宇津ノ谷の集落を歩くと、江戸時代の屋号が今も残る石畳の通りや古民家など時が止まったかのような雰囲気が漂い、豊臣秀吉の陣羽織を保存した「御羽織屋」のご由緒を見つけることも出来ました。

宇津ノ谷の魅力を次世代へつなぐために
宇津ノ谷倶楽部は、地域の文化や歴史を未来へつなぐため、宿場町をつなぐ全国会議やシンポジウムにも参加し、全国の宿場町とのネットワークを築くことで、新たな視点を取り入れた活動も進めています。
「夜に灯りが一切ないところが情緒に溢れていますね」と、これまで意識しなかった魅力に、外部からの声で気づくことも多いそうです。
万葉の頃から人々が行き交った宇津ノ谷峠。丸子宿と岡部宿に挟まれ「間の宿(あいのしゅく)」とも言われる宇津ノ谷集落の峠暮らしは、日の当たる時間が短く、我慢が必要なことも多くありますが、希少な地域資源や魅力に溢れています。

地域の活動を外部から補い、つなげていく。
「宇津ノ谷を離れた人々やその子ども、孫たちにも、この地を訪れてもらえるように!」
宇津ノ谷倶楽部は、「静かなまちが好き」という住民の声を尊重しつつ、無理のない形で持続可能な関係人口の創出を模索しています。
【リンク】
▼宇津ノ谷倶楽部 FACEBOOKページ
https://www.facebook.com/clubutsunoya/
▼SHIZUOKA YELL STATION団体情報ページ
https://shizuoka-yellstation.com/group/d002
取材・文/JUNK itamura
