事例紹介
10年間。袋井市出身の映画監督が、子どもたちと続ける映画づくりワークショップ
文化・芸術・スポーツ活動団体 | 袋井市月見の里学遊館 |
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活動場所 | 静岡県袋井市 |
地元出身のアーティストや著名人は、地域にとって誇らしい存在で、「〇〇さんと同じ学校の卒業生です」や
「芸能人の○○と同郷で・・」と話題にあがったり、自然と活躍を応援したくなったりしますよね。
袋井市月見の里学遊館が行う、ふるさと応援プロジェクト『映画をつくろう!』は、映画『東南角部屋二階の女』で監督を務め、今年はTVドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の演出を手掛けた、袋井市出身の池田千尋さん(以下、池田監督)と一緒に、小学生から中学生までの子どもたちが映画づくりを体験する夏休みのワークショップです。
はじめて池田監督が、月見の里学遊館と共に地元・袋井市でワークショップをスタートさせてから、今年で10年。子ども達の力作が集まった完成披露上映会に合わせて、東京から袋井市に帰郷していた池田監督にお話を伺いました。
地元には、居場所がなかった
地元を離れ、東京の第一線で活躍する池田監督が、なぜ再び地元袋井で子どもたちと一緒に映画づくりワークショップを行うのか?その理由を伺ってみると、「小学校、中学、高校と、自分の居場所がなかった、私のような子どもに伝えられることがあるような気がして」と、ゆっくり自身に確認するように話しはじめてくれました。
好きな映画の話をしたいけど、学校では周りの人に理解されない。話題が通じない。自分だけなにか違う場所にいる感じをずっと抱いていたそうです。
高校生になって「映画を撮ってみたい」と思った時にも、近くに映画について教えてくれる人や、地元で映画製作をしている人を見つけることは出来ませんでした。
当時の池田監督が、ひとりでもがいた経験から、「昔の自分を救いたい。同じように居場所を求めている子どもがいるかもしれない」と、映画づくりワークショップの構想は発露しました。
ひと夏の映画づくりが積み重なって「10年」
大学進学で上京し、自分と同じく映像の道を志す仲間にも巡り合い、本格的に映画製作に取り組むようになった池田監督。『袋井・東京交流会』に参加したことがきっかけで、袋井市月見の里学遊館の根津館長と知り合い、故郷での映画ワークショップが実現します。
「大人が手を貸すことは簡単ですが、出来る限り子どもの力だけでつくることをルールにしました。」
子ども達の自由な発想を、大人の意図で誘導してしまわないように気を配ったそうです。
第一回の開催を終えた後、教えるだけでなく逆に子どもから学ぶことが多く、ワークショップを通じてもっと出来ることが見えてきたそうです。
「また来たい!」という参加者の声にも背中をおされ、年に一度のワークショップは次年度以降も継続することになりました。
地元ボランティアスタッフの協力や、袋井市からのバックアップもあり、今年でワークショップは10年目になります。
当初は、作品のクオリティを求めてはいませんでしたが、参加者から「映画監督になりたい。もっと上手くなりたい。」と意思を持った発言が出始めました。求めるものにこたえなければと、映画を専門に学ぶ映画美学校ENBUゼミナール生や、池田監督のサポートを務めるプロスタッフが加わり、映画づくりは年々レベルアップ。
リピート参加する子どもが多いことも大きな特徴で、子どもにとっていかにこのワークショップの存在が重要なのかうかがえます。
過去の参加者が、本格的に映像制作の道へ進み、映画祭に作品がノミネートされるなど、10年の継続から様々な展開が生まれています。
いつだって、「今」が一番印象的
「ハプニングやトラブルがあったけど、みんなで協力して撮り終わることができた。」
「普段決してやらないことをワークショップで出来て楽しい。撮り方も勉強になる。」
と参加した子どもからは、感想が寄せられていました。
池田監督と子どもたちの関わりについて、
「映画を作る人として接し、子ども扱いしないが、向き合っているという姿勢をぶらさない。」
「毎年必ず、映画づくりを通して子ども同士の衝突があるが、1人1人に丁寧に寄り添っている」
池田監督の存在がワークショップ全体の空気づくりに多大な影響を与えていると、助監督を務めた二宮さんや月見の里学遊館のスタッフは言います。
この10年、作品と共に子供たちの成長を見届け、常に苦労や感動も更新され続ける中、今この瞬間が一番印象的だと池田監督。
高校生になったワークショップの経験者も、上映会に訪れて「自分ばかりとみんなが言っても意見がまとまらないし、意見を言わなかったら自分のつくりたいものがつくれません。みんなで1つの映画をつくる。これは簡単なようでとても難しいことだと思います。」と、池田監督とのワークショップについて当時の想いを話してくれました。
「こんな大人も居るんだよ」と魅せられたら
「自分が地元で子どもたちと関われるのは、ひと夏の数日間だけ。」
軸足を東京に置く池田監督は続けて、
「でも、1年に1回のその時だけは、こんな変な大人も世の中にはいる、映画っていう面白い世界があることを魅せつけたい。」と言います。
それは、「こんな大人がいることを知っていたら、もう少し楽だったかも。」という過去の自分へのメッセージのようにも聞こえます。
単一な色に染まりがちな地方の学校で苦しんだ経験や、狭い世界の中での他者との違いをどう認めるのか。映画のおかげで小さい居場所を作れた自分。そんな池田監督のこれまでを昇華させる役割も、ワークショップは担っていたのかもしれません。
「映画は、学校の勉強とは違って、自由で答えのないもの。自分で答えを決めていいんだよ」
全ては理解できなくても、いつか生きるヒントになるかもしれないと、子どもに本気で伝えようとしている熱量がワークショップに満ちていました。
「出会うことからしか始まらない。」「映画って面白いよ。」
完成披露上映会が終わると、子ども達が一斉に池田監督のもとに駆け寄ります。
元々は地元に愛着があったわけではないそうですが、ワークショップ活動を通じて様々な縁もでき、地元を再認識しているという池田監督。東京から地元にスタッフを呼ぶ際には、「袋井市を楽しんで貰いたいから」と美味しいお店を探すのだそうです。