事例紹介

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「孤独育児」経験が生んだママたちの拠り所 支え合いながら子育てしやすい地域に

子育て・教育
「孤独育児」経験が生んだママたちの拠り所 支え合いながら子育てしやすい地域に
活動団体 一般社団法人ママとね
活動場所 静岡県三島市

「ママとママがつながる」「ママと地域がつながる」ことで、子育てを楽しめる地域づくりの活動を行っているのが、中島あきこさんが代表理事を務める「一般社団法人ママとね」です。

現在「ママとね」は三島を拠点に静岡県東部地域で、転入や地域で初めて育児をするママやパパが地域とつながりを持てるような様々な活動を行っています。2014年に活動をスタートし、「ママとね」が管理するFacebookページのフォロワーは2200人、LINE登録者数は2300人を超えています。(2021年6月時点)

活動を始めたきっかけは、中島さん自身が生後4ヶ月の女の子を連れて三島に移住してきたときの経験によるものでした。「ママとね」立ち上げの経緯や、現在の取り組みについてお話を伺いました。

孤独育児の体験が「ママとね」の活動につながったという

――「孤独育児」で辛かった日々が転機に

埼玉県鴻巣市出身の中島さん。都内で医師として働いていましたが、2009年に夫の転勤で三島に移住することに。その時、長女あかりちゃんはまだ生後4ヶ月でした。中島さんは「三島は観光で訪れたことはありましたが、全く縁の無かった場所。私の母はすでに他界し、子育てを相談する人も頼れる人もいませんでした」と当時を振り返ります。

実際に三島に移住して1年半くらいは友達もできず「孤独育児」が続いたと言います。体の不調を助産師さんに相談しようと、行政から渡された助産師リストに電話したこともあったそうですが、最初に電話を掛けた助産院はすでに廃業しており、「迷惑だから電話しないで」とあしらわれたそうです。「相談相手も無く、友達を作ろうにも当時は地域のサークル活動の情報も見つからず、本当に孤独な状態だった」と中島さん。

そんな辛い経験をした中島さんは「誰かとつながるきっかけさえできれば、私のように孤独育児になることはない。ただ、そのための情報が不足している。子育てに関わる地域の情報を集めて発信し、ママたちに届けることができたら」と考えます。

――「孤独育児」で辛かった日々が転機に
「ママとね」の活動がママと地域がつながる大事な役割に(写真提供:ママとね)

――静岡県東部の子育て情報サイト「ママとね」の立ち上げ

2014年、長女あかりちゃんが4歳、長男じゅんのすけくんが1歳の時、静岡県東部の子育て情報サイト「ママとね」を立ち上げます。その年の4月に開いたウェブサイト「ママとね」公開イベントには、1200人を超える来場があったと言います。その後も「ママとね」では、静岡県東部で活動する子育て支援団体やサークルの情報、イベントの情報を発信したり、親子向けイベントの企画・運営をしたりして、ママと地域がつながるサポートをしてきました。

中島さんは「静岡県東部は、小さな市町村が20もあり、情報が分断されています。行政も隣の市の情報は把握していないケースも多くあります。WEBであれば市町村の境界は関係なく、必要としている人に情報を届けることができます。私自身、専門職の傍らWEBの業務も好きで、自分が経験したことを踏まえて、誰かの役に立ちたいという思いでスタートしました」と話します。

――静岡県東部の子育て情報サイト「ママとね」の立ち上げ
子育て応援詩集「トツキトウカ SHIZUOKA EAST」は地域の協力で成り立っている

――地域のママや企業スポンサーのつながりが生む関係人口

活動当初は友人と2人で始めた「ママとね」ですが、活動が広がるに連れて、一緒に運営をサポートする地域のママや企業スポンサーとのつながりも広がっていきました。

その重要な役割を果たしているのが子育て応援詩集「トツキトウカ SHIZUOKA EAST」です。「トツキトウカ」は、妊娠中から0歳児を育てるママ・パパから赤ちゃんへ贈る愛のメッセージを詩集にするプロジェクト。毎年10月10日に発行することを2014年から続けています。

子育てに理解や応援をする地域企業や医療機関の協力・協賛によって成り立ち、地域のママたちから成る運営スタッフやサポートスタッフによって支えられています。中島さんは「スタッフたちは、自分の仕事や育児の隙間時間を使って、地域に貢献したい、同じ境遇のママたちをサポートしたい、という思いで活動しています。企業も含め、地域全体で子どもを見守り育てていくことが大切」と話します。地域の子育てに関わる関係人口が増えることで、自ずと情報が集まり、イベントなどの「コト」が生まれ、支えあいながら子育てしやすい地域に変わっていく様子が見て取れます。

――地域のママや企業スポンサーのつながりが生む関係人口
開設準備中の「あひる図書館」はすでに全「本箱オーナー」が決まっている

――本を介して人と人がつながる“不思議な図書館”を開設

さらに今秋、三島の楽寿園近くに三島みんなの図書館「あひる図書館」をオープンする準備が着々と進められています。
これは「ママとね」が運営する私設図書館ですが、仕組みが少し変わっています。約30センチ四方の本箱を「本箱オーナー」が借りて好きな本や雑貨を並べます。気に入った本があった人は借りることができるという不思議なシステムになっています。焼津にある「みんなの図書館さんかく」がモデルになっているそうです。

中島さんは「あひる図書館」を開設する背景について、こう説明します。「新型コロナの影響で人と会う機会が減り、つながりが希薄になっている人が増えています。オンラインでつながることはできますが、リアルの場でつながりができず、孤独になりかねません。本を介して人とつながることや、居場所を作ることができればと考え、この図書館を作ることにしました」。

10月中にプレオープン、11月1日にグランドオープンを予定しています。さらに図書館の隣室はコワーキングスペースにもなる計画。1階は飲食店なので、食事をしたりお酒を飲んだりしながら、ゆっくり自分の時間や本に触れる機会を作っていきたいそうです。

――本を介して人と人がつながる“不思議な図書館”を開設
地元の中学生に向けた「命の授業」(写真提供:ママとね)

――地域のためにできること

「ママとね」は、地元の中学3年生に向けて「命の授業」を行ったことがあります。ママと赤ちゃんが学校を訪れて、詩集「トツキトウカ」にどんな思いで詩を投稿したかを語ってもらいました。中学生には自分の親から手紙や写真が用意され、「生まれてきたことの大切さ」を感じてもらう取り組みになったそうです。

今後、県外にも「ママとね」の活動を発信して、県東部に移住や関わりを持ちたいと考えるママやパパの相談にものっていきたいと考えています。「子育てや働き方など、人それぞれ多様であって良いと思います。地域とつながることで子育てが楽しくて、静岡東部に来て良かったと思えるようなサポートをしていきたいです」と中島さん。
ママやパパにとって「ママとね」が地域の拠り所として、さらに地域に笑顔とつながりを生んでいくこの先のストーリーにも注目したいと思います。

 

 

 

 

 

(文・写真)静岡県関係人口ライター