事例紹介

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富士山固有の生態系を取りもどすため、100年後を見据え、つぶさに、正確に、執拗に追いかける

環境
富士山固有の生態系を取りもどすため、100年後を見据え、つぶさに、正確に、執拗に追いかける
活動団体 NPO法人富士山ホシガラスの会
活動場所 静岡県御殿場市

「10年後か100年後かはわからない。執拗に追いかけて、富士山固有の生態系を取り戻していくのが我々の活動。」

そう強く語るのは、NPO法人富士山ホシガラスの会(以下ホシガラスの会)の副理事長、横山澄夫(よこやま すみお)さん。“ホシガラス”とは、富士山など高山の森に住んでいる野鳥の名前です。ホシガラスは“森を再生する鳥”とも言われ、富士山の森にもホシガラスが埋めた種が育って成長したと思われる幹周り6mを超すブナの巨木も見つかっています。ホシガラスの会は “ホシガラス” のように自然の森づくりを推進すべく、富士山の森を学び、親しみ、そして守りながら、未来の子どもたちに永く残していこうと、裾野市、御殿場市、小山町の方々を中心に誰もが参加し活動できる会として2013年にNPO法人を発足しました。

「10年後か100年後かはわからない。執拗に追いかけて、富士山固有の生態系を取り戻していくのが我々の活動。」
左から、横山さん、理事長 勝亦惠美子(かつまた えみこ)さん、事務局長 勝又幸宣(かつまた ゆきのぶ)さん

富士山が固有の生態系を形成していること、そしてそれが危機に瀕していることを知っていますか?

若い活火山の富士山は、噴火後の溶岩流で覆われた空間にさまざまな植物が生育を始め、長い時間をかけて植物が入れ替わることで独自の生態系と種の多様性が生まれている、大変貴重な環境です。中でも御殿場口は、数十年単位の短い間隔で起こる自然撹乱(雪代=スラッシュ雪崩)により森林が成立することができず、独自の生物群集がみられます。その御殿場口で近年問題となっているのが侵入植物の増加です。要因のひとつとして挙げられているのが、長期にわたる非自生種の植樹と種子の侵入です。2019年にホシガラスの会が行った調査によると、御殿場口で記録された植物のうち6割以上が侵入植物と判明し、貴重な自然が破壊されつつあることがわかっています。

富士山が固有の生態系を形成していること、そしてそれが危機に瀕していることを知っていますか?
ヒメスイバなどの外来種を駆除する活動 (写真提供:NPO法人富士山ホシガラスの会)

ホシガラスの会では、富士山独自の生態系の復元を目指すべく、富士山の自然環境の大切さについて多くの方々に理解を深めてもらう活動のほか、光の差し込まない人工林に落葉広葉樹の生育を促す混交林化の活動を行っています。

生態系の復元のためにできること。<①暗い人工林ではなく広葉樹を>

元来の生態系復元に向け、ホシガラスの会が取り組んでいる事柄は主に2つあります。1つは、富士山麓の人工林の所有者である国・法人からの理解と連携を推進すること。2つめは、増えすぎたニホンジカによる食害からの保護です。

そもそも人工林とは、戦中、戦後の木材需要に応じて伐採された天然林の代わりに、法人や国が人工的に造林した木々のことを指します。木材確保のため、ヒノキ・スギなど成長の早い針葉樹を密に植えられた人工林は、暗く地面に光が差し込まないため下草や苔が育たず、森の生態系の破壊につながる例が後を絶ちません。こういった現状を打破するため、ホシガラスの会では、所有者の協力を得ながら生態系の保護を視野に入れた“間引いて広葉樹を生育させる”という森づくりを推進しています。

加えて、ホシガラスの会が緊急的な課題として取り組んでいることが、二ホンジカの食害問題です。富士山には天然林がまだまだ数多く残っています。しかし、芽吹いた草や樹木の新芽などを鹿が食べてしまうため、次世代の樹木が育たず、立ち枯れや植生の貧相化が進んでいるのが現状です。ホシガラスの会では鹿から森の植物相を保護するため、植生保護柵、樹皮防護ネットの設置などを当面の主な活動としています。

生態系の復元のためにできること。<①暗い人工林ではなく広葉樹を>
静岡森林管理署、常葉大学と協働で樹皮防護ネットを設置 (写真提供:NPO法人富士山ホシガラスの会)
「森の生態系保護のためにも、植林や森への理解を深めることに加えてルール作り(条例等)の必要性を感じています。」と語る横山さん。

生態系の復元のためにできること。<②正確な調査と次世代につなげる環境教育>

2013年にNPO法人化をして以後、ホシガラスの会では環境調査に力を注いできました。環境調査により富士山の現在の生態系を定量的に把握することは、森を守るために今どんな活動が必要なのかが明らかになるだけでなく、将来、人工林と広葉樹による“混交林化”が実現できた場合に “どのように森が変わっていくのか?” を観察していくことを可能にします。

この調査結果を多くの方々に知ってもらう手段のひとつが、昨年から取り組んでいる環境教育です。「環境教育のためには徹底して自然環境調査をする」「真実を追求する」 という信念のもと、小学校向けのフィールドワークや書籍の発行などの活動に地道に取り組んでいます。

生態系の復元のためにできること。<②正確な調査と次世代につなげる環境教育>
ミズナラ原生林のナラ枯れの様子。ホシガラスの会では、ドローンなど最先端の器材を用い、定量的に調査を行っています。
初の女性理事長として手腕をふるう勝亦さん(左)。調査結果を基に環境教育に取り組んでいます。

進むメンバーの高齢化と100年後を見据えた活動の両立。共に活動をできる熱い心を持った人を募集中!

現在、会員は75名、平均年齢は70代。下は40代から上は88歳までが活動しています。一筋縄ではいかない生態系の復元のために100年後を見据えた活動を行っていくには、様々な年齢層のメンバーの協力と継続した調査や発信が必要不可欠。メンバーの高齢化が進む中、専門家でなくても「やってみたい!」「富士山の自然環境にふれてみたい!」と思うメンバーを大募集中です。

ホシガラスの会では年20回ほど森に入り、鹿対策の植生保護柵の中で“一定の期間にどんな木が何本生えたか?” “生物多様性の指標となる蜘蛛がどのくら い生息しているか?”などの定量調査を実施しています。その際、専門家と息を合わせて数えていくのがメンバーの腕の見せ所です。

ホシガラスの会のメンバーになると、こうした活動のお誘いをメールで受け取ることができます。また、富士山に足を運ぶことが難しい方でも、寄付や支援金という形で活動をすることも可能です。

団体ホームページにはこれまでの活動や調査結果、美しい写真などが掲載されているので、ぜひのぞいてみてくださいね。

 

 

 

参考資料:
『富士山御殿場口の自然環境と課題(2020年改訂版)』発行日:2020年2月/ 発行者:特定非営利活動法人富士山の森を守るホシガラスの会
『富士山学習シリーズ① 須走口 条項2,000mの草原と森林 ~宝永噴火から再生する 森~』発行日: 2019年7月/ 発行者:特定非営利活動法人富士山の森を守るホシガラスの会
『富士山御殿場口 雪代堆積地の侵入植物』発行日:2016年2月/ 発行者:特定非営利活動法人富士山の森を守るホシガラスの会

(文・写真)静岡県関係人口ライター