事例紹介

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地域の強みや課題を見直す機会に。世代を超えた交流が活性化

地域の強みや課題を見直す機会に。世代を超えた交流が活性化
活動団体 倉真地区まちづくり協議会
活動場所 静岡県掛川市倉真地区

写真左から、中間支援組織「里山留学」 in 静岡の橋本貢さん・天野多美子さん、倉真地区まちづくり協議会の横地静雄さん・原田淳子さん

倉真地区は掛川市の北東部に位置する中山間地域。戸数470戸、人口1600人ほどの集落です。人口減少と高齢化が進み、かつて500人いた倉真小学校の児童数は、令和4年度には52人にまで減少する見込みです。複式学級が目前に迫るなか、倉真地区まちづくり協議会では関係人口拡大につながる事業を主軸に活動しています。

本記事では、ふじのくに関係人口創出・拡大のモデル事業として令和3年度にスタートした「静岡県に山村留学を!倉真地区の魅力を活かした関係人口の取り組み」について、倉真地区まちづくり協議会の横地静雄さんと原田淳子さん、「里山留学」 in 静岡の天野多美子さんと橋本貢さんにお話をうかがいました。

人口減少によるコミュニティ活力の減退が課題

山村留学とは、都市部に住む子どもたちが長期間に渡って、自然豊かな農山村地域で地元の学校に通いながら生活をする取り組みのこと。

今から約50年前に「都会に住む子どもたちに自然体験をさせたい」という親たちの要望から、長野県で始まりました。受け入れ側の地域の過疎化や学校運営にも寄与するという双方の効果によって全国に広がっていき、現在では北海道から沖縄まで67市町村で行われています。

「呼び名は離島留学、里山留学とさまざまありますが、倉真では『くらみ里山留学』と名付けました」と話してくれた横地さん。山村留学を受け入れようと思った背景について、「山間地における少子高齢化は私たち倉真地区においても深刻で、とくに子育て世代の地域外への流出は、倉真小児童数の減少として顕著にあらわれています。新幹線掛川駅から車で15分という便利な距離にありながらも、人口減少によるコミュニティ活力の減退が課題となっております」とのこと。

山村留学が地域へもたらす効果としては、児童の増加により、小規模校の課題である複式学級の回避に加えて、児童の家族など都市部からの交流人口の創出や移住促進が期待できます。さらに、留学生のメリットは、自然豊かできめ細やかな小規模校での学び、往来しやすい第二の故郷という点があげられます。

このような背景から、地域外の都市部に居住する親子を対象に、倉真の地域資源の強みを生かした山村留学の受け入れを目指すことになりました。

今年度は静岡県初となる山村留学に踏み出せる準備を

2021年6月にスタートした関係人口創出・拡大のモデル事業の取り組みでは、山村留学を進める実行部隊として、くらみ里山留学実行委員会を協議会内に組織し、地域課題の洗い出しや調整、情報発信をしながら統括を行っています。

「倉真小学校で県内初となる山村留学に踏み出せる準備をしています。ゴールは、地域外から山村留学に参加する親子(関係人口)に来てもらい、その家族との交流などを通して地域コミュニティの活力向上を図ることです」(横地さん)。

「関係人口への主なアプローチは、くらみ里山留学のホームページやSNSでの情報発信です。大切なことは、倉真の自然環境はもとより、地域が子育てにかかわる教育環境やありのままの日常などを情報発信していくことだと考えています」(原田さん)。

今年度の目標は大きく3つあるとのことです。1つ目は地域内への啓発活動と情報発信。2つ目は長期受け入れの前段階となる短期滞在イベントの実施。3つ目は次年度以降の年単位での留学受け入れに向けた下地作りです。

具体的な実施プログラムについて、「まずは令和3年8月に地元向けの地域説明会を開催しました。そもそも山村留学とは何か、そして山村留学誘致の地域におけるメリットは何かということを理解してもらうことが目的でした。このため、長野県阿智村で山村留学を実施している活動団体「NPO法人なみあい育友会」さまにお越しいただき、活動の現状をお話しいただきました。また、現在留学生を受け入れているご家庭ということで、天野さんのお子さんが滞在している里親の斎藤さんご夫婦に長崎県壱岐の島からZoomでご参加いただきました。
両方の立場からお話を聞けたということで、地域で受け入れたときのことが少し理解いただけたのではないかと思います。不安や疑問なども出ましたが、それはより現実味を帯びたゆえの率直な意見だと感じました」(原田さん)。

次に実施した啓発活動はワークショップです。地域内からは区の代表者や地域活動をしている方、PTA役員や子育て中のお母さんなど、幅広い世代の方々が参加し、地域にとってのメリットや不安なことなどを出し合い、課題を共有しました。

さらに、12月の土曜日に短期滞在イベントを開催しました。この日はちょうど倉真小6年生が卒業イベントとして恒例の「親子大門松作り」に取り組む日でもあり、参加者には、一緒に体験していただくことにしました。

今年度は静岡県初となる山村留学に踏み出せる準備を

目的は住民と触れ合いながら、倉真の雰囲気を感じてもらうことです。コロナ禍により募集は県内都市部にとどめ、結果浜松市から3組、静岡市から1組の計10人の親子が参加。これに倉真小の親子20人が加わり、合計30人が参加するイベントとなりました。

「倉真小の校長先生に校内の案内をしていただき、お昼は地元野菜のご飯を食べ、午後からはクリスマスリースとミニ門松を作る体験を行いました。講師も住民に務めてもらうなどして、総合的に倉真のマンパワーを活用した一日体験会でした」(原田さん)。

「今回のイベントに参加して初めて山村留学という制度を知った」という参加者が大半で、「子育て支援として、選択肢が一つ増えただけでも参加して良かった」「来年はショートステイしたい」といった声があがったそうです。

関係人口との交流で住民の自信や幸福感が高まることを期待

「今年度はコロナ禍の影響を受け、多くの関係人口を呼び込むことができませんでした。しかしながら、今回の体験会が報道などで取り上げられることによって、県内の複数地域から問い合わせをいただいています。次年度以降はこうした地域との交流も期待できます。さらに、体験イベントの開催継続やホームページでの情報発信により、より多くの関係人口を巻き込むことができると思います」と話す横地さん。

今回のプロジェクトの成果について、「地域が動き出したことで、受入れ体制の強化や自治体などとの連携を得ることができたこと。そして何より、中間支援組織の「里山留学」in静岡との連携により、地域住民が客観的に地域の強みや課題を見直す機会となったことは大きな成果です。この気づきは地域にとって大変重要なことで、世代や年代を超えた交流が活性化したことは明らかです」と横地さんは分析しています。

原田さんは、「住民の自信や幸福感は、他地区との交流によってさらに高まり、地域が活性化すると期待しています。また、「里山留学」in静岡など地域外の人が地域と多様に関わる連携体制は、関係人口創出の成果の一つと言えると思います」と語ってくれました。

倉真地区まちづくり協議会は、留学生の年単位での受け入れを目指して、次年度以降も受入れ体制の強化や資金の獲得を図るとともに、くらみ里山留学のホームページやSNSでの積極的な広報活動を行っていく予定です。「継続的に参加者を呼び込んで、ゆくゆくは留学生の同窓会を組織したい」と横地さんが語ってくれました。

▼3月4日報告会動画(倉真地区まちづくり協議会)

▼倉真地区まちづくり協議会

https://shizuoka-yellstation.com/group/d070/

▼くらみ里山留学のホームページ

https://kurami-satoyama.com/