事例紹介
「べビ*ステ」で荷物も心も軽くなる街♪富士宮
子育て・教育活動団体 | NPO法人母力向上委員会 |
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活動場所 | 静岡県富士宮市 |
一月某日、富士宮市の火葬場・富士宮聖苑にいた私は、売店の側に「べビ*ステ」なるステッカーを見つけました。そこには「ベビーステーション あってよかった!会えて良かった!」という文字が添えられています。「死」「別れ」の場である火葬場に「生命」を感じさせる「べビ*ステ」。さらに奥へ進むと授乳室があり、そこで私はハッとさせられました。
一般的な葬儀では、開式から火葬場でのお別れまでに二、三時間を要します。さらにその前後、冠婚葬祭の場で根強く残る「女性が接待に動き回る」という風習が発動すれば、赤ちゃんの空腹はもちろん、母乳育児をしているお母さんも乳腺炎になりかねません。そう考えると、非日常である火葬場にも母子へのサポートは必須だと感じました。
それにしても、火葬場にベビーステーションを設置する団体とは、一体どのような団体なのでしょうか?
早速、富士宮市と協働事業でべビ*ステを運営する、NPO法人母力向上委員会をたずねました。
富士山を背景に現れた秘密基地のようなログハウス。出迎えてくれたのは、べビ*ステ事業リーダーの金指舞子さんとNPO法人母力向上委員会代表理事の塩川祐子さんでした。
金指さん「べビ*ステは、子連れでおでかけする方が“いざ”というときに安心できる場所です。紙おむつの販売やミルク用のお湯の提供を受けられるので、べビ*ステを利用することによって、約4kgといわれるママバッグの重さが約1.2kgも軽減されるんです♪」
これは“孫育て世代”にも嬉しい情報!なんと、富士宮市内の97%のコンビニが登録しているそうです。
金指さん「それだけではありません。コンビニの店内には分かりやすい案内POPも貼っています。紙コップは取り分け皿にも使えて持ちやすいんですよ、とか、ノンカフェイン飲料の案内、子どもが一人で持って食べやすいスティックパンなど、子育てに慣れていない人でもサッと選べるお手伝いをしています」
子育て中の「できない」「分からない」は、親に強烈な不安や焦りを感じさせます。その気持ちは子育てをしていく自信を失わせることもあるので、分かりやすく教えてくれる案内POPは有難いですネ♪
金指さん「私がべビ*ステをはじめたきっかけは、出産後に気持ちが沈んでいた時に母力向上委員会に出逢ったからなんです。自分が救われたので、今度は私がお母さんたちの助けになりたいと思いました」
そもそも、“母力”って何なのでしょうか?
塩川さん「“母力”というと、家事も育児も完璧にこなして、仕事もバリバリ、美容にも気を遣っていて…というイメージを持たれる方もいらっしゃいますが、そうではありません。私たちの考える“母力”は、子育て中のお母さんの自己肯定感を高め、健康を維持し、自分の人生を選択する力を養ってもらう、ということなのです」
まだまだ母性神話が幅を利かせ、「女性は家事も育児も仕事も介護もできてスゴイね~(他人事!)」という台詞で女性に様々な負担を強いる日本社会において、素晴らしいコンセプトです♪では、一体どのように母力を高めてもらうのでしょうか?
塩川さん「例えば、FOR ME DAYです。見守り託児スタッフ付きのイベントで、子育て中の親御さんに仕事や勉強、趣味の時間を持ってもらう“子連れ自分時間”です。自分の軸探しや就職に関する個別相談、スキルアップのための講座などを行っています。子育て中の親が一人の人間として自分の生き方を考えられたり、好きなことに没頭する時間を過ごせる空間です」
「忙しい」という漢字は「心を亡くす」と書きますが、休む暇のない育児はまさに「忙」になりえます。忙しさによって自己肯定感が下がってしまう人、なかには産後うつになる人もいます。だからこそ、託児付きで自分の時間が持てることは心の充電になりますネ♪
塩川さん「他にも、お母さんたちにライターとしての勉強をしてもらい、富士宮の魅力を情報発信する“ハハラッチ事業”も行っています。なんと、この事業をきっかけにプロのライターになったお母さんもいるんですよ」
男性の長期に渡る育休取得率が伸びないなか、出産をきっかけに離職し、社会との繋がりが薄れてしまうお母さんは少なくありません。そのような現状において、産後の講座をきっかけに、地域と、社会と繋がりを広げられるハハラッチの養成!おみごとです。
塩川さん「私が大切にしているインドの名言に、『あなたは他人に迷惑をかけて生きているのだから、他人のことも許してあげなさい』という言葉があります。人に迷惑をかけない人など一人もいません。おかげさま、お互い様という気持ちで、みんなで子育てをしていきたいですね」
今後の活動や目標をお聞かせください!
塩川さん「若い世代に子育てについて知ってもらいたいです。地域で子育てに関わる人を増やし、子育ての質を高めていきたいですね」
「NPO法人の課題は維持継続」といわれるなか、全国の様々なNPO団体へ視察に行き、相談をして、継続・運営していく力を身に着けたという母力向上委員会。2020年度は収益の半分以上は委託事業収益で、他16%は独立行政法人からの助成金を受けているということでした。でも、この数字には思わず納得でした。
なぜなら、母力向上委員会の取り組みは、産み、育てる女性の生涯を応援する団体です。
だからこそ、これが本当の「女性(助成)金」、ということでしょうネ☆
※独立行政法人福祉医療機構(WAM)が行う社会福祉振興助成事業(WAM助成)は、国庫補助金を財源とし、NPOやボランティア団体などが行う民間福祉活動を対象とした助成金制度