
- 活動団体
- 一般社団法人 つなひろ企画
- 活動場所
- 三島市ほか
使われなくなった空き家に、新たな息吹を吹き込む——。「一般社団法人 つなひろ企画」の代表・濱野将汰さんは、人と地域をつなぐ大切な場所として、空き家を生まれ変わらせています。自身の経験を活かしながら、移住希望者や地域の人々が集う場所を作る濱野さんに、お話を伺いました。
空き家に新たな活きる道を与える団体

濱野さんが代表を務めるつなひろ企画は、「空き家の利活用を通じて人々の繋がりを広げ、交流の場や新たな活動を始める機会を創ること」を目指し、2021年に創立しました。現在は、三島市や静岡市など静岡県全域で、空き家や移住相談などの活動をしています。住人の高齢化やライフスタイルの変化に伴う転居などを理由に空き家になった物件に新たな活用法を見出し、生まれ変わらせるのが濱野さんの仕事です。また、地元企業から遊休不動産の相談を受けることもあるといいます。
「空き家になる原因は色々な要因が絡むことが多い。通常の賃貸や売買では、流通しやすい不動産のほうが利益も得やすいと思います。一方で、空き家は活用の中で地域とのつながりを作れれば、また違った魅力や付加価値が生まれると感じています。」
ちなみに“つなひろ”という名前は、「つながりを広げる」という言葉に由来するもの。まさに濱野さんの活動は、静岡県内の不動産を軸に、地域と人のつながりを創り、広げていくことです。
大学卒業後は不動産売買の道へ
焼津市出身の濱野さんは、大学卒業後、都内の不動産会社に入社。同社は不動産の買取/再販事業を展開する傍ら、空き家活用にも力を入れていたといいます。
「その会社では、不動産の仕入れ営業と空き家活用メディアの立ち上げ・運用を経験しました。働く中で、『この仕事は、地元でこそ必要とされるのでは?』と感じ、静岡へのUターンを決意しました」
2021年7月、濱野さんは地元静岡に戻り、つなひろ企画をスタート。同時に沼津市のコワーキングスペースにも通い始めます。
「東京で培った空き家活用のノウハウをそのまま静岡で転用するのは難しい。利活用のアイデアを得ようと、8ヶ月ほどコワーキングスペースの運営も経験しました。住まいも仕事も多種多様な利用者さんが訪れる環境に身を置き、人をつなげることの重要性と大変さを学びました」
現在、濱野さんは静岡を拠点に、特定の居住地を選ばない働き方をしています。
三島市のビルを借り受け→お試し移住の拠点へ
Uターン後、濱野さんは三島市にある物件の利活用に踏み出しました。
「3階建てビルのオーナーさんより、3階の空き居住スペースの利活用の相談を受けました。使い回しの提案をし、自宅兼事務所・シェアスペースとして使わせていただきました」

翌2022年、つなひろ企画は「静岡県令和4年度関係人口創出・拡大モデル創出事業」に参画。三島市でのお試し移住プロジェクトでは、濱野さんが手がけたこの物件がお試し移住先に選ばれました。東京や神奈川から、3組のお試し移住者が訪れ、この物件を拠点に1、2週間の三島生活を体験したといいます。
「お試し移住者さんの一人は、『一生住み続けるかはまだ分からないけれど、まずは飛び込んでみよう』という気楽な気持ちで参加されていました。地方移住に興味はありながら、二の足を踏む人も多いかと思います。首都圏が通勤圏内の三島なら、“転職なき移住”もできる。ライフスタイルや働き方、興味関心に合わせて、ライトに移住できるのも静岡の良さです」

静岡は若者世代が移住しやすい街
濱野さんは、「静岡は若者世代が移住しやすい街だ」と胸を張ります。それはアクセスの良さだけが理由ではありません。若い移住者を歓迎し、仕事や人を紹介してくれる人も多いそうです。
「僕は静岡で創業しましたが、同じことが東京でできたかというとそうは思いません。人との距離感が近いので、地方ならではのつながりができ、ビジネスチャンスもあるように思います」

濱野さんは空き家活用や移住支援を通して、「もっとこの街に若者を増やしたい」という思いがあります。
「静岡で新たな取り組みにチャレンジしたい若者がもっと増えたらいいなと思います。地域の人とのつながりや活動、イベントなどで、県外から定期的に訪れる理由がある人は、静岡に対する愛着も増すと思うんです。まずは静岡に興味を持ってもらえるきっかけを作れるよう、地域内外の方々がつながれる接点をさらに広げていきたいですね」
活動のきっかけは家族
濱野さんがこの活動をはじめるきっかけとなったのは、家族の影響が大きいといいます。
「インテリアデザイナーの母は、静岡市内で建築会社としてまちづくりに関わっていました。新たに建物を建てたり、古い建物をリノベーションしたりして、人が集う場所にする活動です。子供の頃から10年以上、母の活動を間近で見ており、『物件や地域に合わせた建物を作っていくのは面白いな』と感じていました」
現在計画しているプロジェクトも、家族にまつわるものでした。
「焼津の母の実家は、長らく空き家なんです。祖母の家は僕にとっても思い出深い場所なので、新たな活きる道を見つけたいですね」
お祖母さんの家と同様に、現在空き家になっている物件にも、豊富な選択肢があります。居住物件だけでなく、オフィスやレンタルスペース、宿泊施設など、手を加えることで別の未来が拓けるのです。
空き家の可能性を広げ、地域の魅力を伝える濱野さんは、静岡県の新たな未来を形づくるキーマンかもしれません。
取材・文/佐藤優奈
