まちづくり
中部
駄菓子屋とゲストハウスがつなぐ、人と町の関係
活動団体
駄菓子ツバメ
活動場所
静岡市清水区蒲原

子どもが初めて社会とつながる“駄菓子屋”を蒲原で開いた理由

長崎県壱岐島出身の康正さんと清水区出身の裕香さんは、20年ほど前、働いていた静岡市内にある大手レコード店で知り合い、結婚と転勤を機に一度千葉県へ移り住み、その後康正さんの転職をきっかけに静岡へ戻ってくることになりました。

「当時住んでいた富士市内の自宅と妻の実家を行き来する際、バイパスではなく旧東海道沿いを抜けることが多かったんです。古い町並みが好きだったんですね。春に行われている『御殿山さくらまつり』の時に初めて蒲原に来て、町を歩いてみました。散策しているだけなのに、軒先に座っているおばあちゃんたちから『どこから来たの?』と気軽に声をかけられる。ほんの些細なやり取りですが、“温かさ”が強く印象に残りました」(康正さん)

子どもが初めて社会とつながる“駄菓子屋”を蒲原で開いた理由
写真左(裕香さん)、写真右(康正さん)

「駄菓子ツバメ」を開いたのは2017年。たまたまみつけた町内の空き物件がずっと残っていたので、これも縁だと思って購入し、自宅兼店舗にしました。

「駄菓子屋は、子どもが自分の意思で行ける“最初の社会とつながる場所”だと思っています。私も子どものころ、家の近くにあった駄菓子屋に、10円や100円を握りしめてよく出かけました。駄菓子屋では大人と子供の間で「今日はどうしたの?」「学校どうだった?」といった何気ない会話が生まれます。そのやり取りこそが、駄菓子屋の一番の価値だと思っています」(裕香さん)

「ツバメ」という店名は、「世代を越えて戻ってこられる場所にしたい」という思いを込めて名付けられました。「子どもが成長して大人になった時にも、“帰って来られる場所”であってほしい。それはこの町に対する思いでもあるんです」

 

コロナ禍でのゲストハウス開業 街に溶け込むための仕掛け

駄菓子屋を開いてしばらくすると、町の古い建物が、短期間のうちに次々と解体されていくのを2人は目の当たりにしました。康正さんは、建築の仕事をしていたこともあり、「このペースで壊れていったら、5年後、10年後には町の雰囲気が全く変わってしまう」と強い危機感を覚えました。

「妻は、子どもたちが駄菓子屋に集う風景を大切にしたくてこの場所で店を始めたのに、周囲が現代的な建物に変わってしまったら、その空気感は失われてしまう。それがとても嫌だったんです」(康正さん)

コロナ禍でのゲストハウス開業 街に溶け込むための仕掛け

康正さんは散歩しながら、「どうしたらこの雰囲気を残しながら、町が変わっていけるんだろう」と考えるようになりました。ゲストハウスは、その中のアイデアのひとつでした。転機になったのは、蒲原に遊びに来たオーストラリアの友人の何気ない一言だったといいます。

「町を案内して、地域の文化活動を一緒に体験し、家で食事を囲んだ時、彼が『小さな町だけど、日本らしい体験ができてすごく楽しい。泊まれる場所があったら、友達をみんな連れて来たい』と言ってくれたんです。その言葉を聞いて、ゲストハウスを開く決意が固まりました」(康正さん)

オープンは2020年の2月。開業と同時に、新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るい、想定外の厳しい状況が続きましたが、現在は国内はもとより、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど、世界各国から、ネットの宿泊予約サイトを見て、多くの旅行者が訪れるようになりました。

「都会や観光地では味わえない、ピースフルでゆったりした時間を過ごしてもらいたいと思っています」(康正さん)

蒲原という“コミュニティ”に来訪者が溶け込めるよう、工夫を凝らしたのは、敷地内での朝市の開催とチェックインの導線です。

「朝市は毎月第三土曜日に開催しています。その日宿泊した人たちと地元の人たちの交流の場になっています。ゲストハウスのフロントをあえて宿ではなく200メートルほど離れた駄菓子ツバメにしました。ゲストハウスの燕之宿は少し奥まった場所にあるため、直接宿に入ると、近所の人と顔を合わせる機会がありません。旧東海道を歩いて駄菓子屋にわざわざ来てチェックインすることで、姿を見た地元の人たちと来訪者の間に会話が自然に生まれる―。無理なく自然に交流体験してもらうための仕組みです」

 

「庵原みらい新聞」町内のニュース記事を無料配布

大澤さん夫妻が、駄菓子屋やゲストハウスの運営と並行して仲間と携わっている、もうひとつの大事な取り組みが、「庵原みらい新聞」の発行です。蒲原に移住した元新聞記者の人たちと一緒に、地域情報を載せた新聞を蒲原地区の全戸に月1回無料で配布しています。伝える内容は、町内の小さな出来事や地元の人たちの地域活動。「知っている人が載っていて暮らしに役立つ」記事づくりを心がけています。

「外からやって来た人が、この町でどんな人がどんな活動をしているのか知る窓口になり、住んでいる人にとっては、自分たちの日常を改めて見つめ直すきっかけになる。そんな役割を担えたらいいなと思っています。制作も役割分担して約20人の方に関わってもらっています。小規模ながらも地域に仕事が生まれるようにしているんです」(康正さん)

「庵原みらい新聞」町内のニュース記事を無料配布

“住む”“通う”“訪れる”町の価値を伝え続けたい

お二人には、この冬、第四子が生まれました。子育てをしながら、駄菓子屋やゲストハウスの運営をしています。「ここでは、生まれたばかりの赤ちゃんの名前まで、近所の人が知っている。人の顔が見える距離感が、私たちには心地よいですね」(裕香さん)

「 “住む”“通う”“訪れる”―。いろいろな関わり方がある中で、無理なく役割を担える町であってほしい。そのためにも、この町の価値をきちんと伝え続けていきたいです」(康正さん)

駄菓子屋には駄菓子と一緒に「庵原みらい新聞」のバックナンバーが並び、床には、店を訪れた子どもたちやゲストハウスに泊まった人たちが記したメッセージや絵がびっしりと描かれています。町の内と外の関係や活動が、のんびり続き、混ざり、次の世代につながっていく。そんな「ピースフルで安心できる町」を目指して、二人は、これからも新たな取り組みを仲間と一緒に積み重ねていってくれるに違いありません。

“住む”“通う”“訪れる”町の価値を伝え続けたい

ゲストハウス「燕之宿」

https://www.instagram.com/tsubamenoyado_shizuoka_japan/

「駄菓子ツバメ」

https://www.instagram.com/dagashi_tsubame/

※駄菓子ツバメは育児休暇のため、2026年初夏に再開予定です。

「庵原みらい新聞」

https://www.instagram.com/tsubameproduction/p/DTr7u4PEk-a/

 

合同会社つばめ制作社 

〒421-3203

静岡市清水区蒲原3-22-2 駄菓子ツバメ内

電話 : 090-6633-0169

mail : info@tsubameproduction.com

 

取材・文/小林稔和