事例紹介
少子化が進む地域に外からの刺激を!子どもたちの交流の機会をつくり、コミュニティの再構築を目指す(豆游義塾)
文化・芸術・スポーツ活動団体 | NPO法人 豆游義塾 |
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活動場所 | 河津町・西伊豆町 |
元高校教員として、地域の少子化に対してなにができるか。そう考えて、定年退職後にNPO法人豆游義塾を立ち上げ活動を続けている、長田育郎さん。各学校単体での部活動が難しくなっている剣道の地域包括的指導や、県外の子どもたちとの交流の場にもなる自然体験の場を提供しています。これらの活動においてキーワードとなるのが「関係人口」。地域の未来を担う、大切な人たちです。
地域の課題に直面し、教育的視点から考えた地域貢献のかたち
NPO法人豆游義塾の理事長、長田育郎さんは、高校教員として長年静岡県の教育に関わってきました。長田さんの地元の伊豆半島、特に西伊豆地区は急速な少子化が進行しており、定年退職を迎える前から自分なりに何かできないかと考え、スポーツ振興による青少年育成と、伊豆の自然をフィールドにした教育支援事業を行うことにしました。NPO法人にしたのは、地域の学校や自治体、施設と密に連携した活動ができるからです。
「人口が減ってくると、子どもたちが受ける刺激が少なくなる。さらに、部活動などを通じた地域外の子どもたちとの交流も減ってしまうと、自分たちを取り巻く自然環境がどんなに素晴らしいかが認識できない」と長田さん。外からの刺激やアイデアを得ながら少子化という課題に対して活動するためには、交流人口が不可欠だと考えました。そこでNPO法人の役員は、地元の人は3人。他は、現在は県外に住む伊豆半島の賀茂地区出身者や、長田さんが剣道を通じて親交がある人たちです。
長田さん「スポーツ振興で剣道を選んだのは、私自身高校時代から続けていたこともあります。それに加え、少子化が進んだ地域ではチームスポーツでメンバーを取り合うほどの子どもたちがいないという厳しい現状もあるのです。その点、剣道は、教える人と教わる人がひとりずついればできます。また、地方創生や地域振興は地元だけでがんばっていても難しいんです。外に出た人のほうが、地元のことを心配しているものです。そうした人たちと交流を持ち、いかに連携するかがポイント。それなら、私も地元のキーパーソンが務まるのでは、という思いもありました」。
伊豆半島全域を遊び場、学びの場にし、自然に親しみながら故郷への想いを醸成する
自然豊かな伊豆半島。しかし、昔に比べ荒れてしまった海や山の現状に、長田さんは危機感を抱いています。子どもたちの自然体験学習を続けていくのは、その現状も含めて自分たちがいる環境を知ってほしいという思いです。
長田さん「伊豆半島の天城連山は国内屈指の降水量があり、広葉樹の森は豊かな水をたたえていました。しかし、今はシカの食害で、50年前に茂っていた篠竹はすっかりなくなり、ブナの木も育ちません。豊かな海の生態系を育んできた藻場も、今は砂漠のようになってしまいました。遠目に見てきれいな景色だと感動することも大切ですが、荒れている自然環境を認識し、なぜそのようになっているのかを考えてもらう機会も必要なのです」。
長田さん「幸い、伊豆半島の南側の賀茂地区はまだ美しい自然がたくさん残っている。伊豆の玄関口三島市からは車なら1時間半ほどでアクセスでき、国や県、企業の研究機関も多く存在しています。こうした施設の職員の方に講師になってもらい、自然観察会を行っています。地元の子どもたちを対象にしたイベントですが、関東エリアに暮らすNPO正会員の子どもたちも参加します。他地域から来た子どもは、純粋にきれいな自然環境に感動します。その様子に、地元の子どもたちは、自分の周りに当たり前に存在している自然がどれほど貴重か知るのです。そして、豊かな自然を守る大切さを、ともに学ぶのです」。
活動は初志貫徹。人脈を活かした教育支援プログラムで、未来の関係人口を育てる
地元の子どもたちと他地域の子どもたちとの交流は、剣道を通じても行われます。コロナ禍で中断していましたが、今年度は他校との合宿、遠征などで積極的に外に出て交流し、刺激を受ける機会を増やしていく予定です。
また、5年前から、文化庁の「共生社会の実現に向けた障害者等による文化芸術活動推進プロジェクト」の一環で、新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会を賀茂地区(下田市、河津町、南伊豆町、東伊豆町、松崎町、西伊豆町)の特別支援学校を中心に、小・中・高校で開催しています。NPO法人豆游義塾は、子どもたちに地元で文化芸術に親しんでもう教育支援事業として、現地コーディネータを務めています。2024年は、保護者にも参加してもらいやすいよう、河津小学校では参観日に合わせて開催し、活動に広がりを見せています。
こうした活動を通じて長田さんが目指すのは、未来の関係人口を育てることです。
長田さん「理想を言えば、ずっと地元に留まって大人になってもらえれば、それが一番です。けれど、高校や大学進学のために地元を離れざるを得ないのが現状です。だからこそ、地元で暮らしている間は、外から来る人から、また自ら外の地域に出向いて刺激を受けながら、伊豆の良さを認識してもらいたいのです。そして、大人になって地元に戻る。戻らないとしても、関わりを持ち続ける交流人口になってほしいのです。
11年間活動を続けてきましたが、NPO法人はミッションが大事だと実感しています。最初に現状を分析し、何をすべきかを見極めること。そして、途中でぶれない覚悟で活動を続けていくことですね」。
活動を継続するための課題は挙げればきりがないという長田さん。一番の願いは、趣旨に賛同して参加してくれる会員が増えることです。
長田さん「ボランティアも大歓迎です。イベントスタッフや、地域内外に情報発信をするツールの作成など広報を手伝ってくれる方が参加してくれると嬉しいですね」。