事例紹介
先祖が遺した棚田の景観と、豊かな生態系を次世代へつなぐ『せんがまち棚田倶楽部』
農山漁村活動団体 | NPO法人せんがまち棚田倶楽部 |
---|---|
活動場所 | 静岡県菊川市 |
「1,000枚の田んぼ」という意味から、地元では千框(せんがまち)と呼ばれている棚田。
菊川駅から北東へ約7キロ、牧之原台地の西斜面、菊川市上倉沢にその場所はあります。
かつては日本のどこにでも見られた田んぼが階段状に連なる風景ですが、減反政策、後継者不足、生産効率の悪さなど悪条件が重なり、昭和50年代には、その数が激減してしまいました。
そんな日本の原風景を守り、伝える活動を行うNPO法人『せんがまち棚田倶楽部』事務局長の堀延弘さんに、棚田倶楽部の活動と年間オーナー制度についてお話を伺いました。
豊かなむらづくり『農林水産大臣賞』を受賞した茶草場と棚田の里
JR東海道本線の車窓から眺望できる棚田の景色は、四季折々に表情を変え、私たちをのどかな気分にさせてくれます。
全国でも珍しいのは、世界農業遺産の『茶草場農法』を行う茶草場が、棚田に隣接することです。
地元名産の伝統的なお茶づくりに欠かせない茶草場が棚田と共に残ることで、日本在来の動植物が織りなす豊かな生態系が息づいています。
『静岡県棚田等十選』にも名を連ねるこの棚田を、管理・保全するため『せんがまち棚田倶楽部』を立ち上げたのは、地元お茶農家の面々。
「田んぼを荒れさせては、苦労して守ってきたご先祖に顔向けできない」
と本業の傍ら、祖先が遺してくれた貴重な財産を後世に引き継ぐ活動をスタートさせました。
10年以上にわたり続くその活動は2020年、豊かなむらづくり全国表彰事業において、農水省から表彰されるまでになっています。
田植え・稲刈りだけではない、せんがまち棚田の1年
せんがまち棚田倶楽部の活動は年間を通じて行われます。一般的にイメージしやすい田植えや稲刈り行事の他にも内容は盛りだくさん。
冬の間に土がひび割れないように、1月から棚田に水をはることには、静岡県絶滅危惧種Ⅱ類とされる『ニホンアカガエル』の産卵場所を守る意味もあります。
紅梅の季節には畔を保全し、数百の蝋燭を灯し棚田を飾る『あぜ道アート』を開催。里山があたたかく彩られる桜、新茶の季節へ。田植えを終えるころにはカエルが鳴いて蛍が見られます。
草刈りなど農作業のかたわらで、子ども向けの生き物教室も開催され、稲刈り時には棚田女性部の手づくり弁当、収穫を祝う村祭りも催されます。
茶草場農法、蕎麦打ち、しめ縄づくりなど風土に根付いた体験が出来るのも、せんがまちならではです。
棚田での出会いから結婚へ!?若者の参加で新たな企画も誕生
棚田が後世まで残る為には、若い人の理解や協力が欠かせません。棚田が子ども達にとって遊び場所になるようにと考え、『せんがまち棚田倶楽部』では、生き物教室や親子イベントを企画しているそうです。
更に、大学生ボランティアの協力を得て、棚田の保全を楽しみながら行えるように取組んでいます。
静岡大学農学部の学生を中心に結成された『棚田研究会』は、年々盛り上がりをみせて、現在では60名を超えるサークルに成長しました。
地元メンバーからの農作業研修や、学園祭での農産物販売、農業・農村・食をテーマにした交流も活発です。
「学生の発案には、出来るだけこたえてやりたい!」
と話す堀さん。学生のアイデアから棚田をテーマにした絵本『はるのたなだで』が出版されました。
棚田での農作業を通じて結婚することになったカップルも誕生し、この場所をきっかけに新たな縁が生まれています。
自分で収穫したお米が味わえる、2022年棚田オーナー募集
『せんがまち棚田倶楽部』では、毎年1月に、年間オーナーの募集を行っています。
約60区画のひとつとして同じカタチのない棚田。特に大きく告知は行っていないそうですが、毎年継続してオーナー制度に申し込まれる方や、子育て世代に好評で、口コミだけで申し込みがすぐ埋ってしまう年も。
「お金を払うだけのオーナー制度ではないので、年間を通じて様々なイベントを楽しんで貰えたら嬉しいです。」
と堀さん。
その年に収穫した棚田米15㎏が貰える他、地元高級新茶がイベント時に振舞われることも。手づくりの『せんがまち通信』で棚田から便りが届くのも嬉しい特典です。
「規模の拡大は目指さない。これからも変わらず、ここでの出会いやつながりを大切にしていきます。」
春を待つ生命たち。五感での体験と歴史が味わえる千框の棚田は、2022年1月15日からWEBサイトにて申し込みを開始予定。今年も豊作を祈る『田打ち講』、冬の間に土がひび割れないよう棚田に水をはる『冬水田んぼ』から1年をスタートさせます。