まちづくり
東部
築90年の空き家が創業支援の拠点に。10年後の商店街を見据えた「種まき」の活動
活動団体
一般社団法人 柴のしっぽ企画
活動場所
小山町

小山町の中心部、少し閑散としたシャッター街に、温かみのある空間が生まれています。築90年、20年来の空き家だった「川口屋」。この建物を購入し、創業支援の拠点として再生させたのが、一般社団法人 柴のしっぽ企画の代表・横山さんです。

団体名の「柴のしっぽ」には、ほっこりとしたエピソードがあります。この辺りは柴犬を飼っている人が多く、横山さんの奥さんの実家もそうでした。「柴犬のどこが一番可愛いかと言えば、しっぽだろう」。そんな会話から生まれた名前です。

「閑散としたシャッター街を自分の力でなんとかしてみたい」。その想いから始まった活動は、10年後の商店街、そして次世代の自立を見据えた取り組みへと広がっています。

 

ランプ屋が、挑戦者の滑走路へ

川口屋は、もともとランプの燃料を売る「ランプ屋さん」だった建物です。その後雑貨屋さんとなり、長い間空き家として眠っていました。当初は町の中心となったプロジェクトがありましたが、町長の交代とともにプロジェクトは一度消滅。持ち主さんが「売りたい」と言った時、横山さんは迷わず購入を決断しました。

自宅から歩いて5分という立地も決め手でした。裾野市出身の横山さんは、結婚を機に奥さんの家業を継ぐ形で大工となり、現在は「横山工務店」の代表として10年ほど活動しています。設計事務所での経験もあり、「自社でプロトタイプを所有してみたい」という思いもありました。

 

ランプ屋が、挑戦者の滑走路へ
かつて雑貨店だった頃の「川口屋」の写真。屋号である店名をそのまま使用したそう

1年がかりのリノベーションには、中小企業庁の補助金も活用。1階は新しく飲食を始めたい方のための「チャレンジショップ(テストマーケティング)」、2階はコワーキングスペースとして生まれ変わりました。建物の名残として、美しい欅(けやき)の柱だけは残しています。「誰でも使いやすいよう、極力シンプルにしました」と横山さん。

 

地域の力が引っ張る活動

一般社団法人としての柱は「空き家の利活用」「移住・定住支援」「創業支援」の3本です。現在は、創業支援の色が強く出ています。

活動を支えているのは、プロジェクトごとに集まる仲間たち。個人で10名、団体も2〜5団体ほどが関わっています。固定メンバーというより、その都度プロジェクトに合う方に声をかけるスタイルです。

「地域の先輩女性たちのエネルギーがすごいんです」と横山さんは笑います。小山町にはかつて大きな紡績工場があり、そこで働いていた女性たちの行動力と団結力は今も健在。「あれやろう、これやろう」という前向きな姿勢に、横山さん自身が引っ張られている感覚だといいます。

地域の力が引っ張る活動
1階のカフェスペース
2階のコワーキングスペース

1階では定期的なカフェやランチのテスト販売、消防団や商工会青年部の飲み会などの貸切利用も多く、不定期でマルシェも開催されています。2階では、タクシー会社が営業所として入居し、活用の幅はさらに広がっています。

 

プロの目線で創業を支える

チャレンジショップの大きな特徴は、建築のプロとしてのサポート体制です。「実店舗を持つ時には、親身に相談に乗れます」と横山さん。設備も、プロの料理人の助言でスチームコンベクションオーブンなどの「プロ仕様」を揃えています。

利用者には「ヒットするまで諦めずに試して、自分の店を持ってほしい」と願っています。「今は商店街の店主さんたちが高齢化していますが、あと10年ぐらいしたら状況が変わって、チャレンジする人間が増える」と、長い目で見た展望を語ります。

 

小山町外から関わる人たち

柴のしっぽ企画の活動には、小山町外や静岡県外から関わってくれている人もいます。プロジェクトベースで参加する形が多く、それぞれの得意分野を活かして協力してくれています。

地域外の人が参加することで、新しい視点やアイデアが生まれ、活動に多様性がもたらされています。横山さん自身も裾野市出身の移住者として、「人口が減っている分、逆に注目されやすい」という小山町の特性を感じているそう。「結婚した当初は何もないなと思って仕事に必死でしたが、時間が経つと住みやすくて良いところだなと感じます」。

 

参加者からは「自分の得意なことで地域に貢献できる」「新しい人との出会いがある」といった声が聞こえてきます。創業を目指す人にとっては、リスクを抑えながら実践的な経験ができる場として、大きな価値があるはずです。

 

次世代への種まき

「ジュニアエコノミーカレッジinおやま」
https://junieco.jp/

横山さんの視線は、さらに先の未来にも向いています。商工会青年部では、小学生向けの「ジュニアエコノミーカレッジ(起業体験)」もサポート。子どもたちが模擬株式会社を設立し、商品開発から販売、納税まで実際に体験する本格的なプログラムです。

「子どもたちに種を蒔いている段階です」と横山さん。彼らが大人になる頃を見据えた取り組みです。「僕自身も、残りの人生はおそらく小山町で過ごすので、楽しく過ごしたい。自分の子どもたちにも、将来どこにいても自立して困らないように育ってほしいですね」。

商店街を本当の意味で賑やかにしたい。5年後、10年後を見据えた、地道な種まきが続いています。

 

挑戦の第一歩を、ここから

興味を持った方は、まずは川口屋でのイベントに参加してみるのが第一歩です。カフェやマルシェなどが不定期で開催されており、気軽に訪れて雰囲気を感じることができます。

創業を考えている方は、チャレンジショップの利用について相談できます。建築のプロである横山さんに、店舗づくりから運営まで幅広く相談できるのは大きな魅力です。

また、プロジェクトベースでの参加も可能です。自分の得意分野を活かして、小山町の未来づくりに関わることができます。地域外からの参加も歓迎されており、柔軟な関わり方ができます。

かつてランプの灯りを守っていた場所が、今は挑戦者たちの滑走路として、10年後の街に新しい灯りを灯そうとしています。

 

取材・文/大西マリコ