事例紹介

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「最期は家に帰りたい」を高齢化率40%超えの松崎で実現させる

健康・福祉
「最期は家に帰りたい」を高齢化率40%超えの松崎で実現させる
活動団体 合同会社さとづくり総合研究所
活動場所 静岡県松崎町

静岡県で一番小さな町、松崎町。消滅可能性都市のひとつであるこの町は、総人口が約6,000人*、高齢化率は40%を超えてます。その町で、看護師という専門職を活かし “地域で起こる課題” を持続可能なビジネスで解決をしようとしているのが、合同会社さとづくり総合研究所の代表である伊東直記さんです。
*令和5年2月現在

伊東さんが松崎町に移住したのは、約30年前。父の病をきっかけに、子育てのことを考えて家族で移住しました。夫婦ともに看護師として神奈川県で忙しく働く中、趣味である釣りを通じてたどり着いたのが松崎だと言います。現在では、宿泊事業、移住促進事業、福祉タクシーや訪問看護などの介護福祉事業の3本柱で松崎の人たちの生活を支えています。

町の人たちとどのような関わりから事業が生まれたのか?松崎の持つ”温かさ”とは?
伊東さんにお話を伺いました。

伊東さんが運営する「ゲストハウス イトカワ」のシェアスペースにて。明るい日差しに会話がはずみます。

病院勤務の中で見えてきた”地域の高齢化”が、地域の課題解決に取り組むきっかけに

近年は暮らしの選択のひとつとして一般的になりつつある “地方移住” も、伊東さんが松崎町に移住を決めた30年前はまだまだ ”珍しい変わり者”。その状況下でも「地域の人たちが歓迎してくれたことが嬉しかった」と語ります。当時から人手不足だった看護という専門職が町の人たちに求められ、移住後も松崎の病院で看護職に就くことに。職種柄シフトが不規則な伊東夫婦を地域が一丸となって支え、「子どもも地域で育ててもらった」と言います。

時が経つにつれ、病院に勤務する中で目の当たりにした現実が、”地域の高齢化”です。家族や親戚など皆でおこなっていた介護やお見舞いが、地域全体の高齢化が進むことによって次第に困難なものに。高齢の患者さんの移動手段が少ないことや地形上の理由から、重症ではない場合でも否応なく救急車の出動要請が出る、という事態も増加していました。

こういった状況を少しでも変えようと伊東さんが始めたものが、福祉タクシーと訪問看護です。自宅から病院、病院から施設間などを移動する福祉タクシーは、伊東さんや共に働く看護師の方が送迎することで、車いすやストレッチャーでの移動がしやすくなるなど通院や転院の幅が広がり、搬送時に医療処置が継続する方の搬送も可能にしました。さらに、24時間対応の訪問看護を地域で初めて開始したことで「最期は松崎の家に帰りたい」という患者さんの想いを叶えることができるようになりました。

伊東さんを筆頭に、看護師さんや地域が一体となり、共に今の松崎の福祉を支えています。

病院勤務の中で見えてきた”地域の高齢化”が、地域の課題解決に取り組むきっかけに
地元のイベントである「伊豆トレイルジャーニー」に、救護班として参加もしています。

田舎暮らしをしたいという医療関係者の移住相談が増加中

松崎に移住した当時、看護師として伊東さん自らが感じたことが「田舎では実際に”顔が見える看護” ができる」ということ。救命救急で働いていた伊東さんにとって、サイレンの音が少ないことも松崎の魅力のひとつだったと言います。

フリーランスや地方移住が身近になった今、畑を少しやりながら空いている時間に働きたい、という移住希望の方も増えているそう。特に看護・医療職などの専門職は、地方に足りていないことが多く生計も立てやすいため、相談にくる割合も多いと言います。

地域と旅人や移住を検討している人を結びつける役目を担っているのが、”ゲストハウス イトカワ” です。コロナ禍の前までは、宿泊客の6割は海外の方、4割は移住に興味のある日本人の方が中心でした。観光としての松崎は、ダイビング、釣り、ハイキングやトレッキングなどで訪れる人が多く、四季でリピーターが多いことも特徴です。

松崎を訪れる人は多様性にあふれており、職や国もさまざま。中国人の留学生が松崎を好きになり卒業論文を書くためにイトカワに長期滞在をしていたこともあったそう。都会に住んでいる人が「色んな事が忘れられる」と、日本だけなく世界各国から松崎を訪れています。

田舎暮らしをしたいという医療関係者の移住相談が増加中
”多様性”を大事にしている伊東さん。ゲストハウス・イトカワには、海外からの旅行者も多く訪れています。

「のんびりしたところが好き」と評されることの多い松崎。自分が心地よいと思う場所を見つける旅に出てみませんか?

移住者の先輩として移住相談も受けていた伊東さん。最近では、伊東さんが入り口となって移住した人たちと「まつざき田舎暮らしサポート隊(松崎町移住定住協議会)」を作り、グループで移住相談を受けるようになりました。

松崎町の”温かさ”の特徴として、人口が6000人弱と顔が見える関係性であること活かし、イベントが開催される際も積極的に新しい人にも声をかけるなど、みんなでやろう、みんなで解決しようという”共創”の考え方があると言います。

地域を好きになるのは理屈ではなく”心”と語る伊東さん。「移住先を求めている人は、”しっくりくる” という感覚を大切に、自分が居心地がいいと思う場所を見つけてみてください。」と続けます。

看護師の資格を持って松崎に移住してきた伊東さんから、都会で働く看護師の方への温かいメッセージがあります。
「同じ資格で仕事をしていても、働き方や場所が違うだけで見えるものが違う。ベルトコンベアの仕事ではなく、face to faceの看護の仕事がここにはある。熱意をもって看護師を目指した人たちに、こういった選択肢があるということを伝えたい。」

疲れたと感じた時、色んなことを忘れたくなった時は、とりあえずゲストハウス イトカワに遊びに来てみる、という選択肢もいいかもしれません。のんびりと温かい松崎が、きっと出迎えてくれるはず。

「のんびりしたところが好き」と評されることの多い松崎。自分が心地よいと思う場所を見つける旅に出てみませんか?
ゲストハウス・イトカワの庭先にあるのが「おでん」の屋台。地域とゲストを繋ぐきっかけとなっています。

合同会社 さとづくり総合研究所: https://satosoken.net/

 

(文・写真)関係人口ライター