事例紹介
アートによるまちづくり 陶芸祭から“ささま”を世界へ
文化・芸術・スポーツ活動団体 | 企業組合くれば |
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活動場所 | 島田市川根町笹間 |
『ささま国際陶芸祭』を支える企業組合くればは会場となる『島田市山村都市交流センターささま』と空き家を利用したアートプロジェクト『WABISAVILLAGE SASAMA(わびさビレッジささま)』の運営を通じて関係人口創出に力を入れています。土のように無形だった笹間の魅力を形作り、その価値を国内外に発信する「アートによるまちづくり」。陶芸祭のアートディレクターで陶芸家の道川省三さんは“笹間で実績”にこだわりました。
陶芸祭によって笹間の魅力を発信~日本で唯一無二の陶芸祭を~
2011年以降島田市川根町笹間で2年に一度開催されている陶芸祭。日本の陶芸祭としては珍しく教育や国際交流に注力してきました。4日間の日程の前半は招待陶芸家の制作過程を公開し実技を学びながら作家同士の交流を深める『マナブ2days』。日程の後半は作品を使ったお茶会、陶芸家本人による作品の展示販売、地場特産品の販売など地域ぐるみの『デアウ2days』。
6回目となる今年は新型コロナの影響で海外作家の渡航は中止。9月下旬からの2か月を“陶芸祭マンス”として国内の外国人作家によるワークショップやオンラインを活用した国際湯呑コンペなど形を変えて開催予定です。
2007年小・中学校の廃校、人口流出、少子高齢化…直面する事実に自信を失いかけていた笹間住民。課題は“外の人”の招致。省三さんは島田市金谷で焼成中に笹間の実情を聞いたといいます。力になれないか、と訪問して感じたのは「陶芸に最適な場所じゃないか」。人を招く具体案に悩む人々に「ヨーロッパの陶芸祭みたいなのやっちゃえば?」と提言したのが「アートによるまちづくり」の始まりでした。
省三さんは招待客を手配。やるからには一流作家を、と海外の展示会で得たコネクションを活用し世界の陶芸家に来日を呼び掛けました。一方、ゲストのおもてなしを任された笹間。異文化に備えコーヒーマシーンや朝食用のパンを手配。ささま国際陶芸祭実行委員長の根岸久さんは「陶芸の歴史も国際交流の経験もない村に本当に人がやってくるのかという思いは常にあった」と期待と不安が隣り合わせだった当時の心境を振り返ります。
第1回開催後、帰国した作家が書いた記事を通じて感想知った省三さんや実行委員のメンバーは驚きました。「笹間のお茶や朝食が忘れられない」印象的な思い出は村での経験ばかり。次回の参加を希望する世界の陶芸家から問合せが相次ぎ、支援の輪も広がって今年の開催まで繋いできました。同時に地元の自信を着実に固めてきたのです。
笹間を“価値ある土地”として整えていく ~陶芸祭はあくまでも笹間を知ってもらうための打ち上げ花火~
企業組合くればが笹間を持続可能な村にするために立ち上げた『わびさビレッジささま』。陶芸家の活動拠点として空き家を改装しレジデンス(住居)として長期間貸出す事業です。
1番の魅力は「茶部屋」。古くからお茶栽培が盛んだった笹間には製茶をするための小屋「茶部屋」が併設されている家庭がほとんど。“あってもしょうがない”と取り壊されていく中、貸し出す空き家には積極的に茶部屋を残しました。「陶芸家にとっては“工房”付のおいしい物件として喜ばれます」と教えてくれたのはささま国際陶芸祭実行委員会事務局長の道川綿未さん。「“空き家”や“人が少ない”は一見負の遺産と思われがち。でも、視点を変えれば空き家は昔の職人の建築技術を知る貴重な資料、少人数だからこそ村全体が家族となって陶芸家のサポートができる。」と前向きに捉えています。過去にはアイルランドやフィリピンから利用客が訪れ地域住民との交流や農業体験をしました。
交流センターでは「焼き物」をキーワードにワークショップを開講して人を呼び込む取組みも。日本の陶芸家による伝統的なワークショップは外国人作家に人気です。お茶や食まで派生して多様な人が出入りする“文化の交差点”としての役割も担っています。
関係人口が笹間の郷土愛をより強くする ~村で“わびさび”体験を~
10年前購入したコーヒーマシーンでしたが、出番は少なく、ゲストに喜ばれたのは従来からあった給茶機。世界に“笹間リピーター”がいる理由は芸術に携わる者として日本の美意識「移ろいゆくもの、朽ちていくものに美しさや儚さを見出す」体験ができる貴重な場と知っているからかもしれません。
笹間が陶芸に向いている理由はほかにも。交流センター内には湯吞みが最大1,000個焼成できる穴窯があります。拠点を市街地に置く陶芸家にとって約60時間焼成し続けられる環境は貴重です。
焼成に必要な“寝ずの番”には芸大生のイスラエル人が参加するなどSNS等で取組みを知り空き家の清掃や陶芸祭の同時通訳として繰り返し村を訪れる全国の学生ボランティアがいます。彼らも「アートによるまちづくり」を支える“外の人”です。
関係人口を文化継承の担い手に ~継承者はだれでもいい、村が存続するのであれば~
ジョセフィンさんはパリの展示会で省三さんの作品に出会い陶芸の勉強をするためにフランスから移住しました。
今も昔も変わらずのんびりした時間が流れる笹間。確実に変わったのは地域住民が自分たちの文化を未来に誇れる素晴らしいものだと信じられるようになったこと。
村の日常は訪れる人々の非日常として心にほっとした安らぎ感じさせてくれます
村の日常を後世に伝える担い手は時代の流れで“外の人”になったけれど
村の日常が数10年後も村と共に変わらずあり続けてくれるならそれでもいい
村の日常に価値を見出せる人に笹間の資源を届けていきたい
企業組合くればは笹間の人々と共に“村の日常”に基づき、世界に門扉を広げて「アートによるまちづくり」を続けていきます。