
- 活動団体
- NPO法人 奥駿河燦燦会
- 活動場所
- 静岡県沼津市
伊豆半島の付け根に位置する沼津市内浦地区。駿河湾に面したのどかな港町が、現在アニメツーリズムの観点から広く注目を集めています。
アニメツーリズムとは、特定のアニメや漫画のファンによる、劇中に登場する場所・施設の「聖地巡礼」を通して、観光地化が促進することを指す言葉です。彼らは単にゆかりの地を訪ねるだけではありません。飲食店や宿泊施設、地域物産品の購入により、地域に経済的なインパクトをもたらします。
2016年より放送がスタートした人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の聖地である沼津市は、ファンの聖地巡礼により約50-60億円の経済効果があったという試算も出ています。
聖地を巡る人々がいるなら、彼らを受け入れる人々もいます。
今回はラブライバーの聖地である「三の浦総合案内所」を運営・管理する、奥駿河燦燦会(おくするがさんさんかい)の大村文子さん(理事)、荻島清信さん(事務局長)、大村あつみさんにお話を伺いました。
地元民の力で地域を活気づける団体

奥駿河燦燦会は、2006年に設立した団体です。内浦地区を含む奥駿河エリアの地域住民が中心となり、地域活性化や環境整備を担ってきました。同団体が携わる地域イベントとして代表的なものは、毎年夏に内浦漁港広場で行われる花火大会です。
2007年より、奥駿河燦燦会が「奥駿河湾海浜祭」を開催。第20回の節目である2022年に運営を引き継ぎ、「奥駿河湾海上花火大会」として継続しています。
「昨年から地元青年部の皆さんが主体となって運営しています。私たちもいい歳ですから、花火大会は大変でね」(大村さん)
自然や歴史遺産の保護活動

奥駿河燦燦会が担うのは、大きなイベントだけではありません。同地区内にある自然や歴史遺産の保護活動も定期的に行なっています。
地域のシンボルである発端丈山の整備・清掃活動も大村さんたちの仕事です。
「ハイキングコースの草刈りをしたり、倒木がないか確認しに行ったりもしますね。頂上から望む駿河湾と淡島、富士山の景色はいいですよ」(荻島さん)
内浦地区がアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台に
海と山に囲まれてゆったりとした時間が流れる内浦地区に変化が訪れたのは、2016年頃のこと。
「はじめはミニスカート姿の若い子が来て、写真を撮っていってね。少し先の淡島まで歩いて行くと言っていたので、驚きましたよ。ラブライブのことを知ったのはそれから約1週間後でした。SNSで情報が拡散されたようで、日を追うごとに内浦を訪れるラブライバーの方々が増えていきましたね」(大村さん)
彼らの目的は聖地巡礼です。
アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」は、スクールアイドルグループ「Aqours」に所属する9人の少女たちの青春を描く物語。その舞台となったのが内浦地区でした。
彼女たちが通う中学校「浦の星女学院」のモデルとなった長井崎中学校をはじめ、三津海水浴場、安田屋旅館、長井崎弁天島神社など、内浦地区のあらゆるスポットがアニメに登場します。
ファンから聖地として知られる存在に

そして、大村さんたちが運営・管理する三の浦総合案内所も同作品の聖地のひとつ。1期6話「PVをつくろう!」回に、街の観光案内所として登場します。これにより、案内所の来訪者も激増。22年度までに約38万人が訪れたといいます。
「コロナ禍でも年間3万人以上いらっしゃっていますね。日本だけでなく、中国や韓国、台湾から来た方もいましたよ」(大村さん)

案内所には交流ノートが設置され、ここを訪れたラブライバーたちのよろこびのコメントが記されています。キャラクターグッズが所狭しと飾られた室内は、来訪者の記念撮影スポットにもなっているそう。中には、寄贈されたファンアートも多く見受けられます。
大村さんは「私たちは受け取るだけ。一切飾らないのよ」と笑います。
「彼女たち(Aqours)には決まった立ち位置があるのよ。でも私にはわからないから、いつもここに来たラブライバーさんたちに飾ってもらっているの。今月は鞠莉ちゃんのお誕生日月だから、鞠莉ちゃん仕様になっていますね」(大村さん)
Aqoursメンバーの誕生日前後は、内浦が活気であふれます。
「淡島ホテル」は、鞠莉お嬢様の実家が営む「ホテルオハラ」として登場します。これがきっかけとなり、現在では毎年6月に鞠莉お嬢様の生誕祭を開催。イベントと聖地巡礼を楽しむラブライバーたちのにぎやかな声で包まれるといいます。
ラブライブでつながり、人の輪が広がる
アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の放送に伴い、海辺の静かな町・内浦は、突如国内外から脚光を浴びる観光地と化しました。観光公害(※)はないかと尋ねると、3人は口をそろえて「ない」といいます。
「ラブライバーさんたちはね、道端で100円を拾っても『落ちてましたよ』と持ってきてくれるような人ばかり。皆さんゴミは放置せずに、ゴミ箱に捨てるか、自分で持ち帰る方たちですよ。ここを汚したり、住民に迷惑をかけたりしてはいけないということが、きちんとわかっている」(大村さん)
また、単なる観光客としてではなく、内浦地区の地域住民と密接な関わりを築くラブライバーも増えているといいます。
現在、奥駿河燦燦会は、会員25名のうち7名がラブライバー。年齢も居住地もさまざまな彼らに共通するのは、「ラブライブ!サンシャイン!!」と内浦が好きという点です。
※観光客の急増が地元住民や地域環境にもたらす弊害を表す言葉

「地域のイベントごとがあるときは、皆さんあちこちから手伝いにきてくれるんです。花火大会の時は拡声器を持って来てね、交通整理をしてくれましたよ。発端丈山の草刈りも積極的に参加してくれました。私たち高齢者では体力的に難しいことも多いですから、とても助かります」(大村さん)

「ラブライブ!サンシャイン!!」の初回放送から約8年が経過した今、大村さんは内浦地区で毎年開催される「仮装デー」でコスプレに身を包んだラブライバーを見ても、「もう驚きもしませんね」と笑います。
内浦地区の住民とラブライバーのあいだには、確かな信頼関係と強いつながりが生まれていました。
取材・文/佐藤優奈
