事例紹介
「奥駿河」の魅力を写真で発信!築約100年の元郵便局を発信拠点に
まちづくり活動団体 | OKUSURUGABOARD |
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活動場所 | 静岡県沼津市 |
奥駿河湾沿い、伊豆半島のつけ根あたりを「奥駿河」と称して、地域の魅力を発信する活動を行なっているのが「OKUSURUGA BOARD」です。
その特徴は、団体のコンセプトに掲げている「写真から始まるInnovation」にもあるように、奥駿河の魅力を写真を通して国内外に発信しているということにあります。
「奥駿河ってどんな魅力があるの?」
「どんな人たちが集まって活動しているの?」
「写真を通して活動って、どんなことをしているの?」など、
主宰の齋秀雄さんにお話を伺いました。
――東日本大震災がまちづくりへの考え方を変えた
函南町出身の齋さんは現在、祖父が創業し父が社長を務める、沼津市の建設コンサルティング会社「株式会社東海建設コンサルタント」で働いています。「まちづくりに興味があった」という齋さん。東日本大震災で被災地を実際に見たことで、まちづくりに対する考え方が大きく変わったそうです。
「普段仕事で設計をしている道路や橋など、生活の基盤となる公共物が津波と共に流され、家を壊し、町を更地にし、沿岸部の被害を大きくしていました。その光景を見た時、自分達の仕事の意義を考えさせられました。しかし、被災後のまちで、苦しい状況でも人びとが声を掛け合い暖かい食事をしている姿を見て、『まちづくりはコミュニティづくり』だと改めて気付きました。昔はまちをつくる為にものをつくり、現在はまちを良くする為にものをつくる。これからは、まちを好きになるための仕組みをつくる必要があると思います。人気のある施設を建てるまちづくりは、まちの個性が無くなってしまいます。コミュニティがあり、その地域に必要なものを作っていくことでまちに特色が生まれます。郷土愛を育み、まちを育てる人と地域の関係性が大切だと改めて気付かされました」と、当時を振り返ります。
実際に動き出したのは、沼津市が開催した「リノベーションまちづくり」のスクールがきっかけでした。他地域の取り組みなどから、コミュニティや個人の小さな活動でも「まちづくり」というものができることに感銘を受けたそうです。
そこから仲間に声を掛けて2017年7月、「OKUSURUGA BOARD」を立ち上げました。
――奥駿河で感じた魅力とは?
「奥駿河」と聞いて、ピンと来る人はまだ少ないかもしれません。実際に奥駿河という地名があるわけではなく、沼津市の三の浦(静浦・内浦・西浦)あたりを指す呼称です。
「沼津」や「西伊豆」が指すエリアは広く、風景や特色も様々。「三の浦」では、神奈川県の海沿いの地域「三浦」と混同されてしまうことが考えられ、検索してもわかりづらく、せっかくの情報が発信できずに埋もれてしまう可能性が懸念されます。「奥駿河」という言葉を使うのは「このエリアを知ってもらいたい」という思いからだそうです。
まだ定着していない、何色にも染まっていない「奥駿河」という言葉を使うことで、新しいイメージを付けることができるのではと考えました。
奥駿河湾に面し漁業・観光・農業で栄えてきた「奥駿河」というこのエリア。
特に内浦地区は、昔から旅館や民宿が立ち並び、多くの観光客を出迎えてきました。近年では観光客は減ってしまったものの、海と山に囲まれ自然豊かで、新鮮でおいしいものを味わうことができ、古くから残る神社や寺も多く点在し歴史を肌で感じられるなど、この地域の魅力はなくなってはいません。
齋さんは「この奥駿河には、日本の原風景と呼べる景色や場所が残り、街中や都会には無い魅力があります。写真撮影が趣味で、いろいろな場所で撮影をしてきましたが、こんなに自然や人の営みが豊かで、歴史を感じられる場所は珍しいのでは。撮影をしていてすごく楽しいエリアなので、きっと写真が好きな人には楽しんでもらえるはずだと思いました」と話します。
こうして齋さんは、写真を使って、「奥駿河」の地域の魅力を発信していくことを決めました。
――築100年ほどの簡易郵便局跡をリノベーションして活動拠点に
現在、「OKUSURUGA BOARD」は内浦漁港に程近い木造の古い建物を「omusubi」と呼び、活動の拠点にしています。
何年に建てられたか詳細は不明ですが、明治の頃は簡易郵便局や電話の交換所として使われていたという築100年ほどの建物を活用しています。近年は倉庫として使われ、周りを蔦が覆い、窓ガラスは割れ、うっそうとしていたそうです。
リノベーションスクールで一緒になった人たちと建物内にあった大量の物を片付け、齋さんが借りることに。ただ、長年使用していなかった木造の建物は改修が必要で、地元建築会社から廃材を大量に貰ったり、古民家の改修で出た床板をもらってきたりなど、皆さんのご好意で集まった材料でセルフリノベーションをしたとのこと。人と人、地域と地域を結ぶ場所になればと「omusubi」と名付け、「面白い人たちが集まり、地域のハブになれるような拠点」を目指して活動を展開しています。
特に多くの人を動員したイベントは、2020年10月に開催した「草展」という、三島市のアーティストが描いた絵画を展示する企画展だったそう。絵画に加え、「omusubi」の建物や「OKUSURUGA BOARD」の活動に興味がある人も含め、約300人が来場し、新たな交流が生まれたといいます。
また、地域の魅力を知ってもらおうと、写真家と一緒に撮影しながらまち歩きをする「奥駿河PHOTOツアー」や、スマホ撮影のコツを学びながら散歩し地元料理を味わう「スマホで楽しむ奥駿河散歩講座」などを開催。これまで県内外より48名が参加されています。
このような活動を通して、「OKUSURUGA BOARD」のメンバーだけでなく、参加者も撮影した写真を自分のSNSで世界に発信することにより、「奥駿河」の魅力を写真を通して広く知ってもらいながら、地域の魅力を再発見できるような取り組みを進めています。
「OKUSURUGA BOARD」のメンバーは現在7人で、地域や職種の垣根を超えて集まっており、皆さんそれぞれに仕事を持ちながら団体の活動に参加しています。メンバーの1人、増田都佳佐さんはライターとして働きながら、自身の発信力を生かして2019年から「OKUSURUGA BOARD」のメンバーとして活動しています。先の「草展」も、増田さんから発信された情報を聞きつけて足を運んだ人も多くいたそうです。写真好きという共通点を持つ個性的な他メンバーも、各々の特技や仕事を生かしながら「奥駿河」の活性化に貢献しています。
――海外からの観光客の増加にも期待
このような活動を続けていく中で、地域の人たちにも少しずつ「奥駿河」で面白い活動をしていることが伝わってきているそうです。「omusubi」で開催するイベントに地域の人が参加して、地域の昔の話を教えてくれたり、家で使っていない古い時計や雑貨を持ってきてくれたりと、交流が生まれているといいます。
新型コロナウイルス感染症発生前に開催した「PHOTOツアー」にも、幅広い年齢層のカメラ好きの人たちが県内外から集まってきたそうで、関係人口の増加に一役買っています。
今後について、齋さんは「海外から訪れた写真好きに楽しんでもらえ、交流できる地域になれば、面白くなっていくと思う」と話します。現在はコロナ禍で海外からの旅行者はいませんが、コロナ前は地域の古民家を改装したゲストハウスに外国人旅行者が宿泊し、一緒に撮影会を楽しんだそうです。
「写真は言葉が必要ありません。言語が関係ないので、外国人にも魅力を伝えられます」と齋さん。
コロナ禍で活動は制限されていますが、今後も面白い企画を計画しているということなので、写真好きの人もそうでない人も、ぜひ「OKUSURUGA BOARD」の活動をチェックしてみてください。