事例紹介

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新しい森づくりを通じて、故郷「笹間」の魅力を発信する。(森づくりS川根NPO)

農山漁村
新しい森づくりを通じて、故郷「笹間」の魅力を発信する。(森づくりS川根NPO)
活動団体 森づくりS川根NPO
活動場所 静岡県島田市

静岡県島田市川根町笹間は静岡県のちょうど真ん中あたり。見渡す限り森また森に囲まれた森林率88%の山村です。豊かな自然を生かしてさまざまな生活体験学習やスポーツ・文化の場として活用され、2年に一度開催される「国際陶芸フェスティバル」は、国内外の陶芸家や来場者で賑わいます。

今回訪れたのは、笹間の森林荒廃防止や林業の振興、山村活性化を目的に設立された「森づくりS川根NPO」。作家の夏樹静子さんが戦時中笹間に疎開していたことをご縁につくられた夏樹文庫で、写真左から平井事務局長、北島会員、岡村理事長、そして原木理事にお話を伺いました。

 

 

―岡村理事長、まずは設立のきっかけを教えてください。

「2005年、静岡市に暮らす笹間出身のある方から、荒廃する故郷の山を守るためにご自分の資産を寄付したいというお話が、本日ご同席いただいた当時の川根町副町長、北島さんにあったんですよ。そこで、せっかくのお申し出をありがたくお受けするためにどうするのが一番良いか考えた結果、NPO法人を作ろうということになりました。それが森づくりS川根NPOの始まりです」

 

翌2006年4月にNPOを設立。間伐の実施や作業路の開設を始め、一社一村しずおか運動への参加、こどもの森づくり体験事業の実施、さらに空家のリノベーションなど、地域の魅力発信にも力を入れています。会員は現在18名。そのほとんどが笹間在住であり、目下最大の問題はメンバーの高齢化とのこと。

 

関係人口へと繋がる活動のメインは、静岡県が推進する一社一村しずおか運動。都市と農村の交流人口の増加による活性化を目的として2006年から始まった取り組みで、森づくりS川根NPOは島田市にあるナカダ産業との協働により地域活性化を進めています。ナカダ産業は工業用、土木用、スポーツで使用されるネットの製造・販売会社。冬季オリンピックのスキージャンプ競技場防風ネットの加工・設置実績を持つ、陸上ネットのリーディングカンパニーです。

 

木のぬくもりに満ちた心地よい図書館。

 

「ナカダ産業の社員とそのご家族に訪れてもらい、原木しいたけの菌打ち・収穫体験や間伐体験、やまめのつかみ取りやそば打ち体験など、ここ笹間の豊かな自然を満喫していただくイベントを実施しています。この活動を通じてたくさんの方に笹間を知ってもらえればと思っています」と平井さん。

 

菌打ち体験の様子

 

―それ以外の方はどのようにNPOの活動に関わりを持つことができるのでしょう。

「現在、NPOが保有する17ヘクタールの山林があります。その樹木を伐採し、ナカダ産業さんのネットを山に張り巡らせて害獣対策を施しながら、新たにコナラやクヌギ、桜などの広葉樹を植えていこうと計画しています。周辺の作業路は後に散策道としても活用できますからハイキングで訪れてくださる方もいらっしゃるでしょうし、また集落間の行き来も楽になります。落ち葉は森の栄養となり、それをたっぶり含んだ地下水はやがて海をも豊かにします。本当は来年あたりから徐々に進めていきたいのですが、メンバーが高齢者ばかりというのが大きなネック。そこに関係人口の方々が来てくださればとても助かるんですよね。これだけの面積を私たちだけでやっていくのは本当に大変なので」

 

―それについての対策は?

「森を守るとか、水を大切にとか、同じ志を持つ企業さんが参加、管理してくれるといいのですが。間伐や伐採はぼくらがやるから、管理に携わってもらえれば」

 

胸の可愛いむささびが会のマークです。

 

北島さんが続けます。「交流人口から関係人口にというのが理想ですが、 もうひとつ、交流人口の中に森や木の専門的な知識を持っている『木のプロ』がいらっしゃることも期待したい。もしかしたら、その人たちがいずれ定住人口となる可能性もあるじゃないですか」

 

「私のできることは何かなと思いながらこのNPOにいるのですが、それこそ先程からお話に出ている環境面から言えば、山は個人的な財産のみならず、国や市、そして笹間の共有財産でもあると思っています。私個人は大したことはできませんが、山のことを考えること、そして山に少しでも足を踏み入れることが、自分の務めかなと思っています」とおっしゃるのは原木さん。

 

「ここを訪れる人は、笹間を体験しようという目的があるわけですから、これは笹間全体で考えていく必要があると思うんですよ。やはり笹間の魅力は、この山と人なんです」と、北島さんが熱い口調で語りました。

 

なるほど。確かに地域がひとつになって取り組むべき課題ですね。交流人口、関係人口が増えれば地域の活性化に繋がり、もしかしたら新しい産業を生み出すかもしれない。定住人口が増えるかもしれない。

 

島田市からの委託で間伐材を利用した生ごみ処理容器キエーロを作成。

 

―岡村理事長、今までの活動で、関係人口は増えているのでしょうか。

「確実に増えていますよ。次をまた期待していますと、訪れた皆さんはおっしゃってくださいます。関係人口を定住人口へと期待すると難しくなってくると思うんですよ。私が理事長を受けた時、故郷笹間を外の人に知ってもらいたい、この清々しい空気を吸ってもらいたいという思いがありました。それは今でも変わりません」

 

「理事長がおっしゃるように、私も笹間をたくさんの人に知ってほしいんです。そして、再び訪れてもらえる、さらには暮らしてみたいと思えるような魅力的な場所づくりが大切だと考えています。交流人口、関係人口は笹間の大きな力になります。この地の魅力を他の人にも繋げていただけますから」と、最後に平井さんがまとめてくださいました。

先日、あるセミナーで「マンメディア」という言葉を知りました。個人が発信媒体となることを言うのですが、現代においては、友人や家族など信頼できる人物が発信する情報こそが大きなムーブメントを起こす力を秘めているとのことでした。

本日皆さんから伺ったお話はまさに「マンメディア」がキーになりそう。人づてに笹間の魅力が伝播し、新たなファンが増えていくよう、今回、笹間を体験した私自身も応援していきたいと思います。

 

山と森に囲まれた笹間地区。

 

■森づくりS川根NPO

https://www.sasama-npo.jp/

 

 

(文・写真)静岡県関係人口ライター