事例紹介

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持舟城と向井水軍。地域の歴史資産で盛り上げる住民主体の賑わいづくり(用宗活性化協議会)

まちづくり
持舟城と向井水軍。地域の歴史資産で盛り上げる住民主体の賑わいづくり(用宗活性化協議会)
活動団体 用宗活性化協議会
活動場所 静岡市駿河区

静岡県静岡市駿河区用宗地区は、しらすの水揚げで有名な用宗漁港のある半農半漁で栄えたまち。静岡市街地からのアクセスもいい、歴史ある静かなまちで始まった「もちむね向井水軍まつり」の開催で、子どもたちが愛着を持てる地域をつくるため活動を続けています。今後は、地域外とのネットワークを活用できる人材も呼び込みながらの、まつり継続を模索しています。

戦国時代の歴史ロマンが語り継がれる、静岡市郊外の静かなまち、用宗

“しずまえ”と呼ばれる、静岡県静岡市の沿岸部に位置する用宗(もちむね)地区は、新幹線が停まるJR静岡駅から在来線で8分。静岡市街地からのアクセスも良く、近年は地域の活性化に貢献する地元不動産会社による開発が進み、用宗漁港の周辺には、日帰り温泉や特産のしらすをはじめとした新鮮な魚介が食べられる飲食店、個性溢れるショップが集まり、週末は観光客で賑わいます。また、少し路地に入ると昔ながらの漁村の風情が残り、エリア内に点在する古民家一棟貸しの宿には、インバウンドも含め多くの宿泊客が足を運びます。

昭和の時代は半農半漁で栄え、海岸は観光地引き網や海水浴で賑わい、冬でも日当たりのいい斜面にはみかん畑が広がっていました。用宗は、かつて「持舟」という地名で、歴史を遡れば、戦国時代は今川氏や武田氏が支配した山城があり、武田氏配下で活躍した向井水軍の拠点にもなっていました。城跡には当時を偲ぶ遺構が一部残るのみですが、地元の人たちからは「城山さん」と呼ばれ、今も親しまれています。

 

 

戦国時代の歴史ロマンが語り継がれる、静岡市郊外の静かなまち、用宗
持舟城址からの静岡市市街地方面の眺め
持舟城址の眼下には用宗漁港、その先に駿河湾が広がり、天気のいい日は伊豆半島まで見晴らす
しらすの水揚げで有名な用宗漁港周辺には、温泉や飲食店など観光客が立ち寄るスポットが集まる

持舟城と向井水軍を題材に、新たな地域活性化に挑む

用宗町内会では、用宗海岸の海水浴場の海開きに合わせて、地域でとれた特産物を販売する人や飲食店などが出店する「青空市」を開催。また、春のしらす漁に合わせて1990年から始まった「しらす祭り」(現在は用宗漁港まつりと改名)など、地域に人を呼び込む活動を長年続けてきました。しらす祭りには、多い年には4万人超の来場者を数えましたが、少子高齢化による住民の減少にはあらがえず、JR用宗駅前を通る国道沿いの商店は次第に数を減らし、日常の賑わいが失われていきました。

そこで用宗町内会が中心となって、2014年から静岡市駿河区役所の協力も得ながら、周囲を巻き込んでまちづくり盛り上げる活動を始め、町内会や子ども会、漁協、地域に拠点がある企業や金融機関などが集まる用宗活性化協議会が立ち上がりました。これに先立つ最初のまちづくり活動の一環で、地域をめぐるスタンプラリーや「持舟城と向井水軍」をテーマに歴史講座を開催。この時に学んだ地域の歴史を題材に、地域の活性化を目的に2015年誕生したのが「もちむね向井水軍まつり」です。

毎年10月に開催されるもちむね向井水軍まつりでは、段ボールで手づくりした甲冑を身に着けた子どもたちが、同じくパネルを使って手づくりした船を曳きながら練り歩くパレードや合戦イベント、飲食店の屋台やステージショーなど、地域の人たちが手づくりするイベント。2016年には、静岡県コミュニティづくり推進協議会の活動優秀賞を受賞しています。次第にまつり開催の情報は地域外にも広がり、用宗住民以外も見物に来る人が増えていきました。

 

持舟城と向井水軍を題材に、新たな地域活性化に挑む
もちむね向井水軍まつりの様子。子どもたちが大漁旗を持ってパレードする

コロナ禍や台風の影響では中止した年もありましたが、6回目の開催となった2024年は、主会場を漁港周辺に移して開催。地域に伝わる和太鼓の演奏、よさこいチームの演舞など、さまざまな出し物を、地域住民も観光客も、ともに楽しみました。また、賑わいの中心となる飲食や物産の出店は50数店。用宗町内会事務長の増田金重さんは、青空市やしらすまつりの頃からの出店者が多いといいます。

「町内の有志がずっと続けてきたイベントや、公民館が年に一度開催する文化展でのフリーマーケットなどで、地元の人が出店する下地があったのが大きいですね。2024年の開催ではキッチンカーもたくさん来てくれました」(増田さん)。

パレードの先導を務めるこども園の鼓笛隊。沿道には多くの出店が並び賑わいを添える

地域住民を主体に、関係人口を呼び込んでまつりと地域の持続性を模索する

用宗地区では、毎年6月下旬に、城山の麓にある用宗浅間神社境内に祀られている津島神社のお祭り、用宗ぎおん祭りが行われていて、この時は露天が沿道を埋め尽くし、静岡市と隣接する焼津市や藤枝市からも人が集まります。もちむね向井水軍まつりも、ここまでの賑わいになるまで盛り上げたいと、町内会では考えています。一方で、増田さんは、町内会役員の負担の大きさも懸念しています。

「用宗活性化協議会は、現在29の団体が参加していますが、もちむね向井水軍まつりは、あくまでも町内会が主体となって開催するイベントです。主催はまつりの実行委員会ですが、町内会の役員と兼任している人が多く、高齢化もあり、正直負担が増えているのが現状です。子どもたちに地元に愛着を持ってもらいたいというのも、まつり開催の本来の狙い。しかしその子どもたちも少子化で子ども会自体も存続の危機です。我々としては、継続しているだけで殊勲賞かな、と思っています」。

もちむね向井水軍まつりは、地域住民が賑わい創出の主体ですが、用宗地区で漁村の歴史やしらすの研究を行う東海大学の学生も協力しています。夏休みを利用して、子どもたちに段ボールの甲冑づくりを指導しているのも、こうした学生たちが中心です。また、金融機関の支店の職員がまつり当日の着ぐるみを担当するなど、少子高齢化が進む現在、こうした地元住民以外の関わりも、まつり継続に必要不可欠になっています。

「ぎおん祭りに比べたら、向井水軍まつりは、まだまだ手づくりの秋祭りのような素朴なまつりです。それでも、観光客が多い訪れる用宗漁港周辺で開催することで、近隣で事業をしている人の中から、また、観光で訪れた人の中からも実行委員会に参加してくれる関係人口が生まれるのではないかと期待しています。実際に実行委員会の中には、用宗在住ではないけれど、この地域の活性化に貢献してくれている人たちもいます。あくまでも地域住民の主体的な参加を促しながら、今は他の地域で暮らしている用宗出身者や、他地域と連携しながらまちづくりをしているような団体に関わってもらいたいと考えています」。

 

地域住民を主体に、関係人口を呼び込んでまつりと地域の持続性を模索する
用宗町内会のみなさん。左から増田金重事務長、栗田正会長、海野光弘副会長、新村善幸副会長

勇猛果敢に戦った向井水軍を題材にして、小さな漁村で生まれたまつり。実行委員会も緩やかに世代交代が始まっています。増田さんをはじめ、用宗町内会の役員の人たちも、今後は、他地域との横のつながりも意識しながら、次世代を担う若手の活躍によるもちむね向井水軍まつりの継続を期待しています。

 

【リンク】
用宗町内会
https://mochimune.stars.ne.jp

 

取材・文/竹内友美