事例紹介

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まちが育て、まちを育てる。「みんなの図書館さんかく」

まちづくり
まちが育て、まちを育てる。「みんなの図書館さんかく」
活動団体 一般社団法人トリナス
活動場所 静岡県焼津市

JR焼津駅南口と浜通りを結ぶ焼津駅前通り商店街。魚屋や肉屋、お弁当屋さんといった昔ながらの気さくで温かみのある店がずらりと並んでいます。さらに昨年、周辺に子育て施設「ターントクルこども館」がオープンしたのを機に、空き店舗を活用した出店希望が増え、子育て世代や若者が集まってきています。
そんな中、商店街の空き店舗を活用し、新たなコミュニティづくりを進める場所にしようと誕生したのが私設図書館「みんなの図書館さんかく」です。

「まちが育て、まちを育てる」をコンセプトに、完全民間主導の図書館「みんなの図書館さんかく」。約30平方メートルの室内には木目調で温かみのある壁一面、ところ狭しと並ぶ約3000冊の本。「みんなの図書館さんかく」では、55棚ある本棚それぞれに市民のみなさんが一箱本棚のオーナーを担い、無料で本を貸し出しています。人気小説の棚、母や家族にまつわる本の棚、世界各国の旅の棚など本のジャンルも様々です。

「みんなの図書館さんかく」の館長で一般社団法人トリナスの代表理事を務めているのが土肥潤也さんです。学生時代から中高生を対象に若者の居場所づくりや地域活動を行う中で、高校生まちづくりスクールをスタート。そして、土肥さんが大学院時代にドイツへ訪れた際、市民自ら公園や公共施設を運営していた姿を見てひらめいたのが、この図書館でした。「自分たちの場所だ!と当事者意識でまちづくりに関わりたい。日本でないなら、住みたいまちは自分たちで作ろうと思った」と話す土肥さん。早速、空き家探しから始め、手頃な家賃で部屋を借りることができ、2020年3月にみんなの図書館をオープンしました。

一箱本棚オーナーの醍醐味は「自分の好きな本を手に取ってもらえる。同じジャンルの本好き同士が感想を言い合えるので、本を通して新たな交流が深まる場所なのだ」。オーナーは月2000円を払い、本棚を借りています。現在、オーナーは開館当初の30人から55人にまで増加。
土肥さんが考えるコミュニティづくりとは「運営者が疲れすぎないように気持ちを明るくもって、みんなが主役になれる場所にしたい」。さらに、地域の課題解決にも取り組む土肥さんは、「本棚は自己表現の場。ここは好きな本を並べるだけで、感想の手紙をもらえたり、出会いがある。顔は見えなくても、リアルに感じられる会話が生まれる不思議な空間なんです。」と想いを語ってくれました。

図書館の運営者、本棚のオーナー、そして本を借りる利用者。みんなの参画があって成り立つ。「みんなの図書館さんかく」の由来だそう。現在は月に約300人の方が図書館を訪れ、0歳~80歳まで幅広い世代の方の多世代交流の場となっています。また図書館の一角はチャレンジショップになっていて、コーヒースタンドの出店もあります。コーヒーを飲みながら本棚を眺め、店主との会話も楽しめる、まさに本好きにはたまらない至福の空間が広がっていました。
土肥さんが手掛けた「みんなの図書館さんかく」の一箱本棚オーナー制度は全国各地の自治体からも注目を集め、今では15都府県30ヵ所に広がっています。土肥さんが各地の開設希望者の視察を受け入れるなどし、地域連帯を生み出しています。
「未来が予想できない時代だからこそ、誰かに頼るのではなく様々な専門性を持った人が共に手を携えて、色んな課題に立ち向かっていくことが大切だ」と語る土肥さん。
現在では各地の本棚オーナー1000人くらいのコミュニティもできたので、各地の図書館で
御朱印帳を作成し、その御朱印帳を持ってまちを巡ってもらうことも企画中だそう。「様々な世代の人がいろんなエリアを行き来して、まちと関わり、図書館を通して交流が増える!」と笑顔で話す土肥さんの姿はエネルギーに満ち溢れていました。

そして図書館のすぐ近くに土肥さんが新たにオープンしたのが“コラボレーションサロンten.”です。点と点を繋ぎ、焼津の10年後の未来をつくる場所として誕生したコワーキングスペース。10年後も持続可能なビジネスであり続けるために、企業同士がお互いの資源をシェアし、異質なもの同士を掛け合わせてイノベーションを引き起こす。焼津の10年後の未来をつくるコラボレーションを生み出す場所が”コラボレーションサロンten.“です。土肥さんの現在の仕事場にもなっているこのサロンから、新たなビジネスの交流の場となっていくのでないかと感じました。
自分たちのまちや社会でワクワクした未来をつくっていけるような「参画」の拠点となってほしいという想いから生まれた「みんなの図書館さんかく」。ぜひ、みなさんも商店街の懐かしい雰囲気や木の温もりを感じる「まちの小さな図書館」で、一緒に“参画”してみませんか?

(文・写真)静岡県関係人口ライター