
- 活動団体
- MAKIGAMI OFFICE
- 活動場所
- 熱海市ほか
独自の音楽で世界を魅了するヴォイスパフォーマー・巻上公一さん。かつては東京に住んで音楽活動を行っていましたが、現在は地元の熱海を拠点に活躍しており、近年は“地元ならでは”の音楽を通じた新たな挑戦を続けています。
そのひとつが、街全体を舞台にした「熱海未来音楽祭」。日本を代表する温泉地から生まれる“音の化学反応”とは?巻上さんと文子さんに、話を伺いました。
国際的に知られるヴォイスパフォーマー・巻上公一

巻上公一さんは、世界の舞台で活躍するヴォイスパフォーマーです。喉歌ホーメイや口琴を操り、不思議な音色を奏でます。この他にもテルミンやコルネットなど、様々な楽器を駆使し、自身の音楽を作り上げています。リーダーを務めるバンド・ヒカシューの活動も今年結成47年目を迎え、全国ツアーや新アルバムを制作するなどますます活発に活動しています。
MAKIGAMI OFFICEは、1978年に設立。現在は文子さんやヒカシューのスタッフと共に、音楽活動やコンサート/ワークショップの企画、口琴の販売などを手掛けています。
地元・熱海に戻り音楽活動に精を出す
若い頃、巻上さんは東京を拠点に活動していました。バンドは大手プロダクションに所属。デビュー後も目まぐるしい日々を数年続けていましたが、その後拠点を地元熱海に移しました。
地元の熱海に戻ったのは1984年頃。ケガをした家族のサポートがきっかけでした。
「実家を建て替えて、スタジオを作りました。レコーディングやリハーサルができる環境を整え、熱海を拠点にして全国をとびまわり音楽活動をするようになりました。温泉はもちろん、水も綺麗なとても良いところですよ」
海外のミュージシャンとの出会い
熱海に戻ってからさらに活動の幅は広がって行きました。世界各国から依頼が舞い込み、各地のステージで演奏を披露する中で、多くの出会いがあったと語ります。
「フェスの出演がきっかけで、現地のアーティストやミュージシャンと仲良くなりました。回数を重ねるうちに、彼らの面白くて魅力的な音楽を日本でも紹介したいと思うようになったんです。彼らが来日した時は、2008年からプロデュースを続けている調布市の『JAZZ ARTせんがわ』に出演してもらったりしていたのですが、せっかくなら東京だけでなく地元の熱海の方々にも聴いてほしいという思いもありました」(巻上さん)
また、文子さんは「巻上公一の音楽を地域の人にもっと知ってほしかった」と当時を振り返ります。そのためのひとつの方法として、音楽祭の構想をふくらませていたといいます。
熱海未来音楽祭を開催

この構想がかたちになったのは、2019年のこと。静岡県文化プログラムの後押しもあり、MAKIGAMI OFFICE主催「熱海未来音楽祭」の開催が決定しました。
音楽祭のコンセプトは、「温泉の町・熱海のざわめきを取り込んだ、未来の音楽、未来の表現」です。2日間に渡り開催される音楽祭に招かれたのは、巻上さんを含む国内外のミュージシャンやダンサーら総勢11組。この期間、熱海の街全体がステージに変貌しました。
「そもそも熱海はコンサート会場がないんですよ。だから音楽祭をやるなら、アーティスト自らが街に出ていかなければならない。でも、苦労ばかりではありません。街中あちこちにパフォーマンスできる場所があるし、何より町全体が音楽祭を歓迎してくれていましたから」(巻上さん)
会場は、熱海仲見世商店街や熱海銀座、起雲閣など熱海を代表するスポットです。巻上さんは「熱海には面白い場所が多い」と胸を張ります。
「ホテルや喫茶店など、昭和風情が残る場所が数多く残されているのも熱海の特徴です。ミュージシャンのなかには、その雰囲気を気に入り、アーティスト写真を撮りに来た方もいました」(巻上さん)


面白い場所・熱海を舞台にした音楽祭では、商店街からサンビーチまでを練り歩くパレードも行われました。初開催にも関わらず、県内外から多くの参加者が訪れ、賑わいました。
「参加者・アーティストともに、温泉に入ってから帰る方が多かったですね。他の地域の音楽祭とは全く違う、熱海ならではの楽しみ方です」(文子さん)
コロナ禍でも途絶えなかった音楽とアートへの熱
翌2020年、第二回の音楽祭は、コロナ禍で行われました。
「会場の入場制限と感染防止対策を万全にし、無事開催に至りました。でも残念ながら、海外からアーティストを呼ぶことは叶いませんでした。プログラムの一部をオンラインに切り替え、一緒に演奏しました」(巻上さん)

参加アーティストは、第一回を上回る21組。対面での交流がはばかられた時期でありながら、音楽やアートを共通言語に、人とのつながりを感じられる時間を演出しました。
「パレードでは、全員がフェイスシールドを被り、熱海の街を練り歩きました。コロナ禍ならではのプログラムでしたね」(文子さん)
また、プレイベントとしてダンサーとミュージシャンの移動型ライブセッション「LAND FES」を実施。熱海の街中を移動しながら、即興でパフォーマンスを披露し、その模様をオンラインでも配信しました。
「アーティストは、場所が変われば、受け取る感覚も変わるし、表現も変わる。参加者の皆さんもその変化を感じながら、冒険気分で楽しめるプログラムです」(巻上さん)
熱海だからこその“化学反応”を
熱海未来音楽祭は2024年に第六回を迎えました。参加者数は年々増加。これまで累計約12000名が音楽祭のために熱海を訪れています。文子さんは「音楽祭を続けられるのも、地域の皆さんの協力のおかげです」と語ります。
「『LAND FES』は、通常はライブをやらないような場所や観光客が入れないようなスポットをあえて選んでいます。例えば、廃業したお肉屋さんとか、神社とか、ビルの屋上とか、アトリエ併設の素敵な洋服屋さんとか(笑)。いずれも地元の不動産屋さんが地域の方と繋げてくれるので、ありがたいですね」(文子さん)

コロナ禍の苦難を乗り越え、熱海未来音楽祭は未来へと続きます。
「音楽祭を含むここでの活動には、東京や他のエリアにはない、熱海だからこその化学反応があります。アーティストにも参加者の皆さんにも、それを味わいに来てほしいですね」(巻上さん)
取材・文/佐藤優奈
