健康・福祉
伊豆
「この町を桑の葉で元気に」。耕作放棄地から生まれた日本一の桑の葉茶(企業組合 松崎桑葉ファーム・くわや)
活動団体
企業組合 松崎桑葉ファーム・くわや
活動場所
静岡県賀茂郡松崎町

静岡県賀茂郡松崎町。温暖な気候に恵まれたこの町で、耕作放棄地を活用した桑の葉茶づくりに情熱を注ぐ人がいます。企業組合松崎桑葉ファームの代表理事・土屋嘉克さん。民宿を営みながら、地域のお年寄りに元気になってもらいたい、町の産業にしたいという想いで10年以上挑戦を続ける土屋さんに、その取り組みを伺いました。

養蚕の歴史を、桑の葉茶で未来へ

養蚕の歴史を、桑の葉茶で未来へ

松崎町は明治から昭和初期にかけて養蚕業で栄えた町です。「早場繭相場」として全国にその名を馳せ、松崎町で生産される繭は質が優れていることで定評がありました。国内各地の業者が種繭の買い付けに集まり、繭市場が開設されるほどの盛況ぶりでした。

「向かいの山を見てください。あれ、昔は全部桑畑だったんです」と土屋さんは語ります。しかし化学繊維の台頭により、かつて町を支えた桑の栽培は次第に姿を消していきました。

2012年、農業大学の先生から「この歴史ある町を、桑で元気にしませんか」という提案を受けたことが転機となりました。民宿を営む土屋さんは、本業の傍ら耕作放棄地を活用し、試験的に約3反の土地で桑の栽培を始めます。

「耕作放棄地が草ぼうぼうで、草刈りにお金がかかってしまう。使っていないんだったら使ってくれということで、あちこちの土地を借りて始めました。でもね、それだけじゃなかった。お年寄りの方々に元気になってもらいたかったんです」

 

土屋さんの目には、もっと大きなビジョンがありました。「家でテレビとにらめっこしているだけじゃなくて、外に出て働いて、多少なりともお小遣い稼ぎになる。そして何より、みんなで集まって話をする。一人で住んでいる方も多いですから、そういう場所を作りたかった」

2014年7月、企業組合松崎桑葉ファームを設立。「健康長寿日本一を目指そう、この町を日本一にしようと掲げてスタートしました」。現在、組合員は57名。自社の加工場も備え、栽培から加工、販売まで一貫して手がける体制を整えています。

 

「収穫から2時間以内」が生む、日本一の品質

「収穫から2時間以内」が生む、日本一の品質

松崎桑葉ファームの桑の葉茶、最大の特徴は「収穫から2時間以内の加工」です。「日本中どこを探しても、これだけの鮮度管理をしているところはなかなかないと思います」と土屋さんは胸を張ります。

 

使用している桑は「キヌユタカ」という特別な品種。山に自生する自然の桑とは異なり、健康成分が豊富に含まれるよう研究開発した桑です。なぜ2時間にこだわるのか。「時間が経つと栄養成分が失われてしまうんです。葉を刈り取ったらすぐに加工場へ運ぶ。色味も違います。鮮やかな緑のまま残るんです。この違いが品質を大きく左右します」

 

その品質は、専門家からも高く評価されています。岩手大学の桑の専門家が試飲した際、「これは日本一の品質だ」とお墨付きをいただきました。桑の葉茶には血糖値の上昇を抑える効果があり、カルシウムは牛乳の20倍以上。ノンカフェインで夜寝る前でも安心して飲めるのが特徴です。「年配の方からは『飲んでも眠れる』と喜んでいただいています。最近は血糖値コントロールダイエットが注目されていることもあって、若い方からの関心も高まっています」

地域の人々、子どもたちとともに

収穫作業を担うのは、主に地元の70歳以上の方々です。暑い時期の作業は決して楽ではありませんが、毎年変わらず来てくれる常連の方も多いといいます。

「お小遣い稼ぎになるのはもちろんですが、みんなで集まって話をする。それがボケ防止にもなるんじゃないかと思っています」。実際、松崎町の住民検診では3年間にわたって無償で桑の葉茶を配布し、地域の方々に健康効果を実感してもらう取り組みを行いました。「血圧が下がって薬を飲まなくてもよくなったとか、そういう声を聞くと本当に嬉しいですね。それが一番の励みになります」

子どもたちとの交流も大切にしています。小学3年生が毎年収穫作業を体験し、桑の葉を使ったスイーツの試食会も開催してきました。中には「将来ここで働きたい」「夏休みにアルバイトに来たい」と言ってくれる子どもいるそうで、「そういう言葉を聞くと、本当に頼もしいですし、この事業を続けていく意味を感じますね」と土屋さん。

また、地域おこし協力隊のメンバーが収穫のボランティアに参加することもあり、任期を終えた後もこの町に住み続け、パートとして働き続けてくれる人もいます。「この町が好きで、ここに住み続けたいと言ってくれる。それがなによりの励みです」

世界へ、そして松崎町の産業へ

世界へ、そして松崎町の産業へ

現在、土屋さんは海外展開にも力を入れています。世界的な抹茶ブームに乗って、ヨーロッパへのサンプル出荷を開始しました。

「同じパウダー状ですから、今の抹茶人気に合わせて展開できるのではないかと期待しています。輸出が軌道に乗って、商品が足りないというくらいになってほしい。そうなれば、耕作放棄地をさらに活用して畑を広げていくこともできます。ただ、桑の木は植えてから収穫できるまで3年かかるんです。だから早めに動かないといけないなと思っています」

一方で、課題もあります。収穫時期の人手不足や資金繰り、そして後継者の問題です。「農業というのは、収穫は一時期に集中しますが、経費は年間を通してかかります。その資金を繋いでいくのが大変なんです」と率直に語ります。

民宿を経営しながらの挑戦は、決して楽ではありません。それでも、土屋さんの目は常に前を向いています。「せっかく始めた仕事ですから、潰すわけにはいきません。57名もの組合員がいて、知らん顔することなんてできないじゃないですか。この事業だけは潰したくないと思っています。組合の皆さんへの責任もありますし、何より地域のためにもやり遂げたいんです」

松崎町は桜葉の産地としても知られ、一時は全国の8割を生産していました。「桜葉に並行してできるくらい、町の産業にしたい。それが夢です。町の一大産業とまではいかないかもしれないけど、桑の葉でちゃんとやっていますよと胸を張って言えるところまで持っていきたい。この町の新しい顔にしたいんです」

あなたも桑の葉茶づくりに参加しませんか?

あなたも桑の葉茶づくりに参加しませんか?

松崎町の魅力について尋ねると、土屋さんは即答しました。「街並みが綺麗で、昔ながらの風情があります。でも何より、人ですね。田舎の人らしい温かさがある。人間性が一番いいんじゃないかと思いますよ」

耕作放棄地を宝に変え、地域の健康と雇用を生み出し、そして世界に挑戦する。民宿を営みながら地域おこしに情熱を注ぐ土屋さんの取り組みは、これからの地方創生のモデルケースとなるかもしれません。

そんな松崎桑葉ファームでは、収穫作業を手伝ってくださるボランティアの方を静岡県内外問わず募集しています。収穫時期は年2回、夏と秋。短期集中での作業となりますが、桑の葉茶は飲み放題。作業後には桑の葉を使ったジェラートを味わえることもあります。あなたも桑の葉茶づくりに参加し、松崎町で一緒に新しい挑戦を始めてみませんか?

取材・文/大西マリコ