事例紹介

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南伊豆町の現地に触れる移住促進事業で、居住者を増やす活動を続ける(NPO法人伊豆未来塾)

まちづくり
南伊豆町の現地に触れる移住促進事業で、居住者を増やす活動を続ける(NPO法人伊豆未来塾)
活動団体 NPO法人伊豆未来塾
活動場所 静岡県賀茂郡南伊豆町

 

静岡県南伊豆町を拠点に活動するNPO法人伊豆未来塾は、現在20名が会員として登録し、移住人口や関係人口の拡大に関わる事業を行っています。移住者のサポートをしながら地元住民との交流の場にもなるイベントやワークを模索する理事長の石川憲一さんと事務担当の阿部正己さんに話を聞きました。

 

NPO法人伊豆未来塾理事長石川憲一さん(左)と事務を担当する阿部正己さん(右)

 

 

資料だけではわからない、現地の空気感をリアルに伝える現地案内人制度

NPO法人伊豆未来塾は、理事長の石川憲一さんたちが2002年に設立した静岡県賀茂郡初のNPO法人です。設立当初は、伊豆農林水産活性化支援センターという名称で、南伊豆地域の一次産業の活性化を目指していました。しかし、担い手不足のため町の人口増も不可欠で、次第に南伊豆町への移住・定住促進活動にも力を入れ名称も変更。現在は南伊豆町の委託事業で、首都圏や現地で開催する移住セミナー、実際に地域を回って案内する現地案内人制度などを行い、移住人口や関係人口を増やす活動に従事しています。

 

資料だけではわからない、現地の空気感をリアルに伝える現地案内人制度
田舎暮らし実現セミナーの様子

 

移住促進活動は他地域よりも一足早く取り組み、10年ほど前から「田舎暮らし現実セミナー」を開催。試行錯誤を経て、レクチャーだけでなく南伊豆町内を無料で案内する現地案内人制度を開始します。町の現状を知ることができるため移住希望者に好評で、2022年度は29組を案内しました。石川さんたちにとっても、移住希望者の本音を聞くことができるため、これからの活動に活かす貴重な情報収集の機会になっています。

 

現地案内制度では参加者が見たいと希望する場所に案内する

 

移住者は、子育て世代からセカンドライフを満喫したい世代まで、さまざま。伊豆半島を代表する観光地・下田市から車で20分程の距離ながら、豊かな自然に抱かれる南伊豆町の静かな環境に惹かれて来る人が多いそうです。

 

自然と温泉、首都圏との程よい距離感が安心できる移住につながる

 

東京都出身の石川さんが移住したのは1989年のこと。子どもの頃から海水浴で訪れるなど、なじみのある南伊豆町は東京から近く、きれいな海があり自然環境に恵まれている理想的な移住先だったそうです。

 

石川さん「セルフビルドで家も建てました。子どもに安全な野菜を食べさせたいと始めた畑仕事が伊豆地域の農業振興に関わるきっかけとなり、自分でも農業法人を設立。有機農法や無農薬栽培で米や野菜を作っています」。

 

NPO法人伊豆未来塾で事務を担当する阿部正己さんは、定年退職後は海と温泉のある地域へ移住したいと考え、7年前に横浜から移住しました。

 

阿部さん「有楽町で開催された南伊豆町の移住セミナーに参加し、石川さんから現地セミナーに誘われました。その後、町のお試し移住制度を1年間利用しました。最終的な決め手は、家族がいる横浜からの近さでしたね。首都圏から日帰りもできる。観光客が少ない静かな町という点が魅力です」。

 

阿部さんが移住希望者と面談をする時には、こうした自身の経験や実感した町の印象も率直に伝えています。

 

自然と温泉、首都圏との程よい距離感が安心できる移住につながる
石川さんたちの活動の拠点・下賀茂熱帯植物園は、各種イベントの会場にもなる

 

 

移住者同士や、移住者と地元の人との交流が生まれるイベントも開催

 

南伊豆町の移住者が中心となって開催するイベントも盛り上がりを見せています。3か月に一度開催する音楽イベントIZUONや、移住者が出店する植木市など、年を追うごとに参加者も増え、今では地元の人や移住希望者の姿も。また、NPO法人伊豆未来塾が主催するカレーフェス in 南伊豆は、2023年11月18日の開催で3回目を迎えました。町内の飲食店8店9種類のカレーを食べ比べできる3枚綴りのチケットは、前売り分が不足してしまうほどの人気です。こうしたイベントによって、よりリアルな南伊豆町に触れられる機会が復活しています。

 

石川さん「チケット購入者は地元の人が多いですが、町外から来られる方もいます。出店店舗にも好評で、これを機に次の機会には店に足を運んで町内めぐりをしてもらえます」。

 

移住者同士や、移住者と地元の人との交流が生まれるイベントも開催
移住者同士や、移住者と地元の人との交流が生まれるイベントも開催
カレーフェスの様子。多くの来場者で会場が賑わう

 

 

“点”の接点を“面”での関わりに変え、交流人口の拡大を模索する

 

石川さんたちが行っている山の植樹事業「南伊豆漁師の森づくり」は2024年3月に第4回目の開催を予定。自然が豊かな南伊豆町に遊びに来る人々との新たな接点づくりにできないか考案中です。

 

石川さん「来訪者が町に貢献できるワークの開催は必要だと思っています。山の植樹は南伊豆町の環境を理解しやすいので、例えば植樹とシーカヤックを体験してもらうツアーで参加者を募るとか」。

 

“点”の接点を“面”での関わりに変え、交流人口の拡大を模索する
南伊豆漁師の森づくりに参加して植樹をする人々

 

阿部さん「地域貢献を希望する学生のコーディネートもしています。学生たちは港で清掃作業をした後、地域での交流を楽しんで帰っていきます。参加人数は年々増えていて、この活動と交流は、確実に先輩から次の世代に引き継がれています」。

 

石川さん「沿岸の海藻や、山に植えた植物で商品開発をするなど、地域資源を使った事業の相談も寄せられます。そうした企業誘致が実現すれば地元の雇用も生まれ、企業の人たちにも地域の清掃活動に参加してもらえる。地域活動は、ボランティアだけでは限界があるので、我々の活動と結びつく事業者が来てくれるとありがたいですね」。

 

南伊豆町と接点を持つきっかけや理由はさまざまですが、企業も個人も、ここで何をしたいのかを明確にしておくと、地域に溶け込みやすくなります。

 

阿部さん「特に年配の方は、何となく移住して暇になってしまうことが一番良くないです。私はいろいろなことに挑戦した結果、畑づくりが続いていますよ」。

 

石川さん「南伊豆町は、転入超過する年もあるほど、移住実績は高いです。今は住民の理解もかなり進み、移住者に寛容なコミュニティができています。まずは気軽にセミナーに参加してほしいですね。私たちも、移住者や移住希望者が地域に無理なくなじめるよう、これからも移住促進事業や地元のイベントを通じてサポートしていきます」。

 

NPO設立当初から継続している海掃除。近年、海岸のゴミは減少している

 

地元の自然を大切にし、移住希望者のサポートをしているNPO法人伊豆未来塾の活動には、“暮らし続ける”という視点があります。南伊豆町に興味を持ったら、まずは移住セミナーや現地案内、イベントや植樹活動などへの参加で町の日常に触れてみてはいかがでしょうか。

 

【リンク】

NPO法人伊豆未来塾

https://shizuoka-yellstation.com/group/d056

 

(文・写真)静岡県関係人口ライター