事例紹介

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森林整備に従事し、伊東市の豊かな里山文化と観光資源を次世代に伝え、残す

環境
森林整備に従事し、伊東市の豊かな里山文化と観光資源を次世代に伝え、残す
活動団体 NPO法人伊東里山クラブ、宇佐美の森を守る会
活動場所 静岡県伊東市

静岡県伊東市には、気軽な軽登山で相模灘や富士山の景色を楽しめるハイキングコースがいくつかあります。伊東市宇佐美の大丸山(だいまるやま)もそのひとつ。過去に台風被害の倒木や土砂崩れ等で通行不能になった時期もありましたが、NPO法人伊東里山クラブや地域住民の活動によって、四季を通じて自然を満喫できるように維持管理されています。20年にわたって活動を続けてきたNPO法人伊東里山クラブ代表理事の髙野政英さんと、宇佐美の森を守る会副理事長の鈴木伸一さんにお話を聞きました。

NPO法人伊東里山クラブ代表理事髙野政英さん(左)と、宇佐美の森を守る会副理事長の鈴木伸一さん

 

 

 

倒木処理や植樹活動を続け、地域の自然と共存できる遊歩道を復活

2004年10月、伊東市は台風22号の通過で大きな被害を受け、特に宇佐美地区の大丸山では、ヒノキ林の崩壊や土砂崩れが随所で発生しました。寸断されたハイキングコースの復旧作業を中心に担ったのが、宇佐美地区の町内会長で組織する宇佐美の森を守る会と、同時期に活動を活発化させていたのが伊東里山クラブでした。

 

髙野さん「私たちNPO法人の前身は、里山で活動する人材育成を目的に伊東市が2003年に主催した伊東市里山づくり講座の参加者が、企画・運営を引き継ぎ2004年につくった任意団体で、2008年NPO法人に移行しました。台風被害を受け、会員を説得して倒木処理に参加。静岡県の森の力再生事業、伊東市補助金事業、林野庁の森林・山村多面的機能発揮対策などによって自分たちが活動の中心になることで、大丸山の再生が加速しました。植栽イベントに協力してくれた行政やボランティア団体、宇佐美の住民の皆さんにも感謝しています」。

 

JR伊東線宇佐美駅から、標高503.1mの大丸山山頂までは約4.5km。台風で道が崩れた区間も新しい道をつくり、歩きやすく整備されたハイキングコースは、近隣や首都圏から来るハイカーに人気で、最近ではトレイルランナーも多くなったそうです。

倒木処理や植樹活動を続け、地域の自然と共存できる遊歩道を復活
倒木処理や植樹活動を続け、地域の自然と共存できる遊歩道を復活
大丸山展望広場からの眺望は髙野さん、鈴木さんたちの自慢。ここで景色を楽しみながら昼食を広げるハイカーも多い

 

 

 

地元の人も地域外から訪れる人も愛着が湧く、10年、20年後を見据えた豊かな森林づくり

アウトドアレジャーや釣りが好きだった髙野さんは、1994年に埼玉県から伊東市に移住。一時期都内までの電車通勤を経験しましたが、後に地元で就職。伊東市里山づくり講座への参加が、身近な自然を楽しみ森づくりに関わるきっかけとなりました。伊東里山クラブでの荒廃森林の再生事業に従事する傍ら、2019年に自営開業した里山ワークスでは、薪販売事業、キノコ原木栽培などを手掛けています。

地元の人も地域外から訪れる人も愛着が湧く、10年、20年後を見据えた豊かな森林づくり
NPO法人伊東里山クラブが企画、運営していた伊東市里山講座でのピザづくりの様子。野外調理は毎回人気だった

髙野さん「大丸山の復旧によって、森づくり活動に傾倒しました。《住》と《遊》の接近が心地よい、と思う、若い頃からの理想のライフスタイルだったので、伊豆半島に移り住んでいい流れだったかもしれません。歩調を合わせてくれた妻の存在は最も重要です」。

 

宇佐美の森を守る会副理事長の鈴木さんは、町内会長の任期を終えた後も会の活動に参加し続けていて、いわば現場の長の存在です。

 

鈴木さん「私が守る会定例活動日に参加した頃には、倒木はほとんど片付けられていました。今は、年6回の定例活動日を続けていて、草刈りや植えた木々の野生シカ食害対策にも注意を払っています。これまでに2200本超を植樹。初めの頃に植えたモミジは日陰ができるくらいに成長し、下草が育ちにくくなり草刈りもずいぶん楽になりました。

大丸山は、ずっと山に向かって登っていきます。最初の眺望ポイント『どっこいしょ』は、振り返ると宇佐美の街並みと海岸の波打ち際の景色が開けます。モミジ、ヒトツバタゴなど多くの植栽樹を見ながら登り、山頂手前の展望広場では、富士山から箱根・丹沢、三浦半島、房総半島、伊豆大島など海の景色を楽しめます。さらに標高581mの巣雲山へと道は続きます。一度来た人が良いところだと、次に仲間と連れ立ってきてくれるのが嬉しいですね」。

大丸山の草刈りをする宇佐美の森を守る会の人たち

台風の被害から20年、さまざまな種類の花木が彩る、四季折々の景色も地域の宝です。

 

鈴木さん「木は10年、20年、100年単位で育っていくもの。孫の代には立派な花が咲くだろうなと想像するのも、活動の楽しみです」。

ハイキングコース沿いには、「なんじゃもんじゃ」とも呼ばれるヒトツバタゴも。5月頃に白い花を咲かせる

 

 

 

関わりたいところから参加を!小さな一歩から活動の輪を広げていく

NPO法人伊東里山クラブは、2011年の東日本大震災をきっかけに災害支援事業や子どもの健全育成事業なども、途中から活動内容に加えてきました。しかし、唯一学校林を持つ市内の小学校が学校統合により閉校してしまい活動範囲が狭まったことや、会員の高齢化など組織そのものの弱体化が懸念材料になっているそうです。休止状態のホームページをどう改善するかも急がれます。

関わりたいところから参加を!小さな一歩から活動の輪を広げていく
2013年、大丸山展望ひろばにヒノキの丸太を2本使った長いベンチを製作。現在もハイカーたちが腰を下ろすひと休みの場として親しまれている

髙野さん「大丸山の活動を継続しながら、伊東市内にある大平山(おおびらやま)ハイキングコースのオリジナルマップ制作も準備を始めています。里山クラブ独自の視点で、植物の解説を聴きながら山を歩き、気に入った樹木を見つけたらマップに「いいね」コメントを掲載する、地図づくりもイメージしています。会員だけでなく、一般の方も参加するイベントになると良いですね。大丸山で行った山道の芝生化計画イベントもそうしたイベントの一つでしたが、そのような行事をきっかけに森づくり活動に関心を持ち、無理なく安全に自然に接してもらいたいです。

『草刈りや植樹は大変そうだけど、マップやマップアプリの制作、ホームページでの情報発信なら手伝える』という人も大歓迎。ぜひできるところから関わりを持ってほしいです。

伊豆エリアでの暮らしは単調ではないので、来てみればおもしろいことがたくさん発見できます。飛び込んできて、人とのつながりをつくりながら自分の道を拓くにはいい地域です。私の移住経験からアドバイスできることも中にはあるかもしれませんので、個別相談も遠慮なくどうぞ!」。

 

まずは、ハイキングで伊東市の山を歩いてみてはいかかでしょうか。この景観が気に入った、守っていきたいという想いが、活動に参加するきっかけになるかもしれません。

 

 

【リンク】

NPO法人伊東里山クラブ

https://ito-satoyama.com

 

 

 

(文・写真)静岡県関係人口ライター