事例紹介
定住人口+関係人口=まちのエネルギー。 光輝く「人」と「未来」を目指し、さらに挑戦は続く。(NPO法人 ひずるしい鎮玉)
農山漁村活動団体 | NPO法人 ひずるしい鎮玉 |
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活動場所 | 静岡県浜松市 |
「今日は天気いいもんで、おひさまがひずるしいやあ」
さて、どういう意味でしょう?「ひずるしい」って何?と思いますよね。「ひずるしい」とは静岡県遠州地方の方言で「まぶしい」という意味。つまり「今日はお天気がいいからおひさまがまぶしいよ」という意味になります。
今回訪れた先は、静岡県浜松市浜名区引佐町北部の鎮玉地域で地域活性化を目的として活動している特定非営利活動法人「ひずるしい鎮玉」。迎えてくださったのは、理事長の廣瀬稔也さん、そして理事の萬立芳朗さんです。取材場所は「ひずるしい鎮玉」が運営している「鎮cafe」。自然と調和した佇まいがなんともいい感じ。ワークショップやイベントでも使用されているとのこと。ちなみに団体名の「ひずるしい」には、鎮玉を光り輝く地域にしたいという意味が込められているそうです。
―早速ですが廣瀬さん、この会について教えていただけますか。
「近年ではこの鎮玉地域も、ご多分に漏れず人口減少と高齢化が顕著で、里山環境の悪化が深刻化しています。これはなんとかしなければと地元出身者が中心となり、鎮玉が人の集まる魅力あふれた地域となることを目指して2013年にNPO法人を設立し、各種事業を展開してきました。結成時のメンバーは14名。地元在住の元教師や自治体職員OB、そして農業従事者が中心でした」
「その当時の自治会長や副自治会長が多かったね」と萬立さん。
お話を伺う廣瀬さんと萬立さんも設立メンバーとのこと。廣瀬さんが続けます。
「有名な観光資源があるわけではないので、正直、ここを目指す観光客もいませんでした。過疎化対策として、いずれは移住者を呼びこみたいけれど、そのためには鎮玉を知ってもらわないことには始まらない。まずは鎮玉を訪れてもらう人を増やすことを最優先にしようと考えたんです。そこで掲げたコンテンツの三本柱は、『川』、『農』、そして『里』。この地域は新東名のインターチェンジが近く、東西への交通利便性がいいんですよ。コンテンツが響けば、地の利を活かせるだろうと考えていました」
蛍が住む美しい「川」は、ビオトープなどを活かした環境教育。「農」は田んぼオーナーを募集し、田植や収穫体験。そして「里」は、ウォーキングツアーや鮎の友釣りなど、関係人口創出に向けて地域資源を活かしたプログラムを展開。さらに鎮玉地域以外にお住まいの方を対象に、団体の活動をサポートする有志グループ「鎮玉応援団」も結成しました。結果、毎年のべ2,000人近くの人が訪れてくれるようになり、関係人口も徐々に増えていったそうです。
―「鎮玉応援団」を地域以外にお住まいの方のみ対象とした目的はなんでしょうか。
「田んぼオーナーを中心に関係人口を増やし、ここを第二、第三の故郷と思っていただける人が増えてくれればいいなという思いでした。30名ほどが応援団として登録してくださいましたね。企画会議に参加してくれたり、ウォークイベントの下見をし、ルートを考えてくださったり。すると、私たちが気づかなかった鎮玉のよさを再発見できるんですよ。かなりいい関係を構築できたのですが、コロナ禍により、状況は大きく変わってしまいました」と、無念の表情を浮かべた廣瀬さん。
イベントは軒並み自粛。田んぼオーナー制度も2年間中止を余儀なくされ、再開したものの、2022年度を最後に中止となったそう。新型コロナ5類移行後の関係人口の関わり方についてはどうなっているのでしょう。廣瀬さんに伺ってみました。
「イベント数や規模を縮小したこともあり、関係人口への取り組みや応援団としての活動も再考中です。現在、環境保全のため年一回、常葉大学の学生さんがビオトーブの生態調査にみえるのですが、応援団のメンバーにもお手伝いとしてご協力いただいています」
―続けてお尋ねします。関係人口が、貴団体と関わるメリットは何だとお考えですか。
「自然の豊かさや地域の温かみがもたらしてくれる癒やしだと思います。ここには、口では言い表せないよさがたくさんある。その人なりの『好き』が見つかる場所だと思います。訪れた皆さんが感じた『好き』をSNSなどで発信していただけると、私たちでは届かないところまで伝播しますから、団体としてもありがたいですね」
最後に、今後の関係人口創出への取り組みについて伺いました。
「昔住んでいたとか、親戚が住んでいるなど、この地域にルーツを持つ方へのアプローチを軸に据えつつ、広くファンづくりを行っていくのが今後のビジョンです」と廣瀬さん。そう、関係人口とは「行き来する者(風の人)」、「地域内にルーツがある者(近居・遠居)」、そして「何らかの関わりがある者(過去の勤務や居住、滞在等)」と総務省が定義しているんですよね。
萬立さんが続けます。
「先ほども話がありましたが、当初は交流人口から関係人口、そして移住へと繋げ、人口減少に歯止めをかけたいという思いから、発信を外に向けていったんですね。しかし人口減少は止まらなかった。特に若年層です。そこで2021年に活動の見直しをした際、今後は内にも目を向けるべきだ。ずっと住み続けてもらうことが重要だろうという結論に達したんです。ここで生まれた子がずっと鎮玉地域で暮らし、成人して子どもが生まれれば、子どもの数は減らない」
「さらに、この地域の住人だけが鎮玉の人口ではないという考えを用いることとしました。定住人口と関係人口のトータルで人口を維持し、マンパワーを生み出すという理屈です。そういう意味でも交流人口ではなく、やはりより深く継続的な繋がりを築ける関係人口が重要であるという思いを新たにしています」と廣瀬さん。
―最後に、さきほど鎮玉は訪れたその人なりの「好き」が見つかる場所だというお話がありましたが、廣瀬さんにとっての「好き」はなんですか。
「私の『好き』はやはりこの環境です。だからここで手応えのある地域づくりをしたいと思ったんです。人と地域と触れ合いながら持続可能な地域づくりを展開する。そういう活動を存分にできることがうれしく、ここに暮らす幸せを感じています」