事例紹介
「余白」を楽しむ長泉町のコワーキングスペース!学生やアーティストの交流で活気を
まちづくり活動団体 | 有限会社日の出企画 |
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活動場所 | 静岡県駿東郡長泉町 |
静岡県駿東郡長泉町。JR下土狩(しもとがり)駅前に2022年10月、「下土狩駅前コワーキングスペース」がオープンしました。
このコワーキングスペースの運営にあたるのが、山田知弘さんが代表を務める「日の出企画」です。日の出企画は、三島出身の山田さんが2012年に立ち上げ、山田さんの経験を生かした移住定住支援や創業支援を行っています。
実はこの下土狩駅前コワーキングスペースは、山田さんが運営する4カ所目のコワーキングスペースです。静岡県東部エリアで学生や地域住民、企業、行政とさまざまなことに取り組む山田さんに、今回は開業して半年が経つ下土狩駅前コワーキングスペースでお話を伺いしました。
「居住の街」長泉町に可能性を感じて
JR御殿場線の下土狩駅の改札を抜けて最初の交差点の角に立つビル。その2階に「下土狩駅前コワーキングスペース」はあります。
長泉町が設置し、公募で選ばれた日の出企画が運営を始めました。長泉町はホームページで、「多様な働き方や地域と事業者等の交流を支援すると共に、新規起業者等を起業相談から独立まで継続して支援します」と、運営の目的をうたっています。
山田さんに公募に応募した理由を聞いてみると、「長泉町はいわゆる『居住の街』で、子育て世代が多く住んでいるエリアです。子育てのために家にいる時間が長く、スキルや経験がありながらそれを生かすことができていない女性が多いのではないだろうかと感じていました。美術館もあり、アートに精通していたり、アート作品を制作していたりする人も集まる地域です。また、近隣に大学もあって学生が多く住んでいるという特徴もあります。こういう人たちの交流促進や事業を開業する支援ができる場所にしたいと考えました」と話します。
「余白」があるから主体的になれる
日の出企画は下土狩駅前コワーキングスペースを含めて4カ所のコワーキングスペースを運営しますが、山田さんが「チェーン店は作りたくない」と言うように、画一的なスペースではなく、それぞれに個性を感じます。
それに関して山田さんは、「余白」の重要性を強調します。
「コワーキングスペースを作る作業でも運営でもあえて余白を残します。余白があることで、誰かがその余白を埋めようとします。全てこちらで完成させてから場所を提供するのではなく、自分で形を作りたいという人が参加して一緒に作ることで、自分たちで作ったという思い入れのある場所になります」と山田さん。
実際に下土狩駅前コワーキングスペースも、近隣の日本大学国際関係学部の学生たちが中心となってスペース内の壁の塗装などを行いました。
ちなみに、この作業風景を撮影した動画作品は、「エンチョー第28回DIYグランプリ」の「一般部門 動画・SNS賞」で優秀賞を受賞しました。
地域に密着したコワーキングスペースを運営してきた山田さんだからこその取り組みです。場所を作っておしまいではなく、それぞれの立場の人が主体的に考えて動けるような環境を提供し、一緒に空間やコミュニティーを作り上げています。
学生主体のPR部隊が誕生
この学生主導の活動が新たな取り組みにも発展しています。
長泉町の魅力を発信するPR部隊「ながいずみMORIAGE隊」です。
日本大学国際関係学部や順天堂大学保健看護学部の学生たち12人で編成。地域の人たちを取材して記事にまとめ、地域メディアを通して街の活性化を目指すという取り組みです。
取材記事は、下土狩駅前コワーキングスペースのインスタグラムアカウントを使って発信し、今後は同施設のホームページにも掲載を予定しているとのことです。
この取り組みも学生の「街の様子を形に残したい」という発案から始まり、山田さんが伴走しながら学生のアイディアを事業に発展させました。
今後は、長泉町から首都圏の大学などに新幹線通学する補助金を受けている「未来人」とも連携し、地域の企業と学生との接点を持つきっかけにつなげていくことを目指しています。
アーティストの地域交流をコーディネート
今年2月から3月にかけて、下土狩駅前コワーキングスペースで展示会「日常+α」が開催されました。
「アーツカウンシルしずおか」による「地域産業とクリエイティブ人材マッチングモデル事業」の採択事業者である日の出企画が主催し、アーティストと地元のものづくり企業とが共創して生まれた「試作品」を発表する展示会です。
山田さんが「アーティストの仕事作りにつなげたい」と言うように、このモデル事業はアーティストのクリエイティブな能力をビジネスとつなげる仕組みをトライアルすることで、企業変革やアーティストの地域交流、移住を期待する取り組みです。
「街や地域の企業」と「アーティストや学生」をつなぐ役割を、その中間に立つ山田さんが自然な立ち位置でコーディネートしていることが伺えました。
「余白」を埋めるプレイヤーを募集!
下土狩駅前コワーキングスペースには3人のコミュニティーマネージャーがいますが、「大学生」「女性起業家」「会社員」と、それぞれ異なる立場の人たちが務めています。
さまざまな人たちが交流できる場所にしたいという山田さんの思いにより、それぞれのコミュニティーマネージャーが利用者に寄り添ってサポートできる体制を整えています。
山田さんは「長泉町は余白が多いエリアです。他の地域はすでにまちづくりに関わるプレイヤーが多いですが、長泉町はまだこれから。ポテンシャルが高い地域という印象もあります。すでにまちづくりが軌道に乗っている地域よりも、自分でこの余白を埋めていきたいという人には適した地域かもしれません」と話します。「ここで何かをやらなければいけないという縛りもありません。やりたいことがあれば、人をつないでいきたいので意気込まずに声を掛けてもらえれば」と山田さん。
可能性を秘めた長泉町に注目するとともに、日々進化する「下土狩駅前コワーキングスペース」に見学に訪れてみてはいかがでしょうか?
下土狩駅前コワーキングスペース
https://shimotogariekimae.akiya-asobi.net
有限会社日の出企画(アンティークドア)
https://www.antiquedoor.net
(文・写真)静岡県関係人口ライター