事例紹介

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表舞台を盛り上げてくれるのは、関係人口の皆さん。 地元メンバーは黒子に徹しています。(東海道間の宿菊川ごりやくの会)

表舞台を盛り上げてくれるのは、関係人口の皆さん。 地元メンバーは黒子に徹しています。(東海道間の宿菊川ごりやくの会)
活動団体 東海道間の宿菊川ごりやくの会
活動場所 島田市

 

東海道五十三次といえば、江戸時代に設けられた53の宿場が有名です。しかしそれ以外にも宿場間の距離が長い、あるいは険しい峠越えなど、難所とされた地には「間の宿」という休憩処がいくつか存在していました。その一つが、現在の島田市菊川にあった「菊川宿」です。幕府非公認の宿場であったため原則として旅人の宿泊は禁じられていましたが、大井川が増水して川渡しができない「川止め」の際には、特別に宿泊が認められていたそうです。

今回は、地元である旧菊川宿を拠点に活動する「東海道間の宿菊川ごりやくの会」を訪ね、会長の山本健太さんにお話を伺いました。

鍼灸院経営の傍ら、会の運営にも積極的な山本さん。

 

―会長ということでしたので、正直、ご年配の方を想像していました。

「若い人がやってくれた方が盛り上がるからと、私が会長に推されました。会員の年齢層は幅広く30代から80代。現在の会員数は約20名です。全体的にはご年配の方が多いですね。皆で話し合い、皆で運営する、とてもアットホームな会です」

―山本さんはいつから会長を?

「新型コロナウイルスが流行し始めた2020年です。会長に就任したものの、3年ほどは何もできませんでした。本会のメインイベントである『茶の実オイル・あかりアート』を2022年に復活させ、そこから本格的に活動を再開しました」

「東海道間の宿菊川ごりやくの会」は2012年、地域活性化を目的に住民有志により設立されました。コロナ禍以前は、地元のアーティストとコラボしたワークショップや、JR東海との協賛によるウォーキングを実施するなど、故郷の資源を活かしたイベントを積極的に展開。「あかりアート」は2015年に第1回が開催され、コロナ禍による中断はあったものの、人気イベントとして定着し、現在も続いています。

「『あかりアート』は、茶の実から抽出したオイルに火を灯した約300の竹灯籠で街を照らすイベントです。会場ではミニコンサートが行われたり、屋台が出店したり、地元住民を中心に大勢の人で賑わいます」と山本さん。

「現在、会の主な活動は『あかりアート』と、金谷(島田市)で定期的に開催される『軽トラ市』への出店ですね。『軽トラ市』では地元の農産物や手作り品、やきそばや唐揚げなどを販売します。昨年からは『じゃばらマーマレード』の販売も始めました」

 

茶の実オイルの柔らかな灯りで、辺りは幻想的な雰囲気に。

 

じゃばらは、見た目がみかんに似た柑橘類。会が2019年頃に植え付け、昨年、ようやく商品化できるくらいの収穫があったそうです。その実を会員さんの工場でマーマレードにし、製品化しています。

 

限定生産「じゃばらマーマレード」。ラベルデザインも素敵ですね。

 

「会員のひとりが、『軽トラ市』を主催する『かなや・ときめきマルシェ』という団体にも所属しているんですよ。その繋がりから出店を続けています。ごりやくの会の宣伝にもなりますしね」と笑う山本さん。

 

『軽トラ市』は、大切な会の宣伝機会でもあります。

 

―会の取り組みに、関係人口は関わっていますか。

「私の鍼灸院に通ってくださる患者さんやフットサル仲間などに声掛けし、『あかりアート』や『軽トラ市』のスタッフとして参加してもらっています」

他の会員さんもそれぞれ個人的な伝手でお手伝いをお願いしているとのこと。駆けつけてくださる方は地元以外の方、つまり関係人口が多いそうです。

山本さんが続けます。

「以前は自分たちだけでやれることはやっていたのですが、地域内で完結しても盛り上がりに欠けるんですよね」

もともと地元有志でスタートした「東海道間の宿菊川ごりやくの会」。現在では、上記のような繋がりから菊川地区以外の会員も数名いらっしゃるそう。

「ぜひ実行してみたいアイデアがあるという理由で入会してくださった方もいらっしゃいます。今年の『あかりアート』では、その方の演出を採用する予定です。最近では、親子で入会してくださった方もいました。また、私は月に1回、藤枝市で異業種交流の勉強会に参加していますが、そのメンバーも頻繁に遊びに来てくれます」

地道な声掛けは確実に成果を上げているようですね。関係人口の参加により、活動にどのような効果があったのでしょうか。

「実は、『あかりアート』のMCや『軽トラ市』の販売員、そして交流コンサートにいつも来てくれるバンドなど、イベントの表舞台を支えているのは、ほとんどが関係人口の皆さんなんです。会員はむしろ、準備などの裏方業務を担当しています」

―なるほど、関係人口との繋がりが強いですね。一体感を感じます。

「ただ…」と複雑な表情の山本さん。

「会の高齢化により、そうせざるを得ないという状況もあるんです。したがって将来的には、地域に限らず、地域外からも若いメンバーの参加をさらに増やすことが必要不可欠だと考えています。私も機会あるごとに会の活動を紹介しているのですが、果たして若い人がどれだけ活動に興味を持ってくれるのか。そのため最近ではInstagramを始めたりもしています。SNSが得意な若いメンバーに、ぜひ参加してもらいたいんですけれどね」

―山本さんの考える、貴会に入るメリットは何でしょう。

「一言でいうと、コミュニティへの参加そのものかな。成し遂げる喜びや知識の広がり、コネクションの形成、あるいは承認欲求など、実際に人と触れ合うことで充足されるものは多いですよね。特に私たちの会は、良くも悪くもつきあいが深い。皆さん本気で、親身になって向き合ってくれます」

SNSは便利なツールですが、一方で互いに顔が見えない分すれ違いが生じやすいというデメリットもあります。その点、コミュニティへの参加は、互いに寄り添う温かな人間関係を築きやすいと言えますね。

 

あかりアート会場にもなる地元の菊川神社。

 

―最後に、会の名前にある「ごりやく」ですが、これにはどういう意味がありますか。

「地元の観音様や菊石などご利益がありそうなものを生かし、菊川地区を活性化していこうという思いがあると聞きました。私自身は、会が頑張ることで地元が盛り上がり、住民や訪れてくださる皆さんが幸せになるというご利益があればいいなと思っています」

菊石とは、菊の花のような模様のある石。この地区の川から多く見つかったことで、その川は菊川と名付けられました。そこから菊川という地名も生まれたそうです。

 

 

■東海道間の宿菊川ごりやくの会

[Instagram]
https://www.instagram.com/goriyakunokai?igsh=MTVvbWZsamE4bzV4bA%3D%3D&utm_source=qr

 

(文・写真)静岡県関係人口ライター