事例紹介
「遠州の小京都」には、奥深き歴史や文化がひっそりと佇んでいました。(遠州木三の里連)
文化・芸術・スポーツ活動団体 | 遠州木三の里連 |
---|---|
活動場所 | 森町 |
静岡県森町は、静岡県の西部に位置する三方を山々に囲まれた人口17,000人ほどの小さな町。平野には帯のように太田川が流れ、左右に古い町並み。その風情から「遠州の小京都」と呼ばれています。
今回は森町の歴史や文化を広く発信しようと精力的に活動されている遠州木三(きみ)の里連さんに取材をお願いしました。お話を伺ったのは代表の榊原淑友さん、そして森町教育委員会の稲葉優介さんです。
―まずは会の名称の由来を教えていただけますか。
「江戸時代、森町は火防の神様を祀る秋葉山の宿場町として、また牧之原市相良の塩を信州へ運ぶ『塩の道』の中継地として栄え、人の行き来が多くありました。そんな中、俳人たちの交流も盛んだったようです。その俳人たちの手紙の中に、遠州木三の里連様という宛名の手紙が残っているんです。木が三つで「森」ということですね。芭蕉の弟子たちが書いた手紙らしいのですが、表現が実に粋ですよね。本会の名前として拝借することで森町のそういう歴史も伝えたいという意図がありました」と代表の榊原さん。
なるほど、森町の歴史を大切にしていこうとする会の思いが伝わってきますね。
「設立は2005年。『遠州の小京都』と呼ばれる風情ある町並み、そして現存する蔵を活かした町おこしを通して、森町を元気にしたいというのが目的でした。私自身、森町の文化や歴史を守っていきたいという思いを常に抱いていたところ、賛同してくださる方が20名ほど集まったので、ならば実行に移そうかと。それが遠州木三の里連誕生のきっかけです」
「主な活動としては、春と秋に開催する『町並みと蔵展』があります。歴史や自然、森町出身の人物などからその都度テーマを決め、掘り下げていくんです。実は森町は、日本製糖業の父として知られ、明治時代に活躍した鈴木藤三郎。また森町を拠点として日本中に烏龍茶の製法を広めた藤江勝太郎など、明治時代、日本の近代化に貢献した偉人を輩出しています。『町並みと蔵展』では、このようにまだそれほど世間に知られていない森町の史実を取り上げて公開しています」と稲葉さんが詳細を説明してくれました。
「同時にお店にも多数出店してもらい、江戸時代の『森市場』としてのにぎわいを再現しています。またお寺や神社、そして蔵では講演会や展示会を開催するなど企画も盛りだくさん。毎年多くの方が訪れてくださいます」
―遠州木三の里連の活動は、狙いどおり地域の活性化に繋がっているようですね。榊原さんに伺います。こういう取り組みに対して、関係人口はどのように関わっていますか。
「通い続けてくださる森町ファンの皆さんですね。毎年楽しみにしてくださっている方が大勢いらっしゃいます。もう長くやっているので、結構有名なんですよ」
稲葉さんが続けます。
「『町並みと蔵展』で森町の歴史に興味を持ち、毎週、森町に来ていますよという人もいらっしゃいます。様々な史跡を訪ね、歴史を掘り下げようと思うと、一度訪れただけでは到底回りきれないそうです」
「森町には魅力ある農産物もたくさんあります。それらを買い求めながら町を散策という人たちも多いですね」と榊原さん。
「森町の魅力に惚れ込み、移住された方もいらっしゃるんですよ」
「魅力といえば、毎年春の『町並みと蔵展』は4月の第1週に開催するのですが、その時期はタイミングがあえば太田川の桜がとてもきれいなんです。それを楽しみにされている方も多いですね。天宮神社の例祭(ほうじ祭)とも重なっていますので、国指定重要無形民俗文化財の十二段舞楽もご覧いただけますよ」
楽しみがいっぱいで一層盛り上がりそう!稲葉さんからとっておき情報をいただきました。
「そして秋の開催は11月。美しい森町の紅葉をご堪能いただけます」
なるほど、リピーターも多いわけですね。森町ファンは着実に増えているようです。
―遠州木三の里連会員に関係人口の方はいらっしゃいますか?
「会員に限らず、会の主旨にご賛同いただき、協力してくださる方は結構いますよ」とお二人。
昨年の秋、天宮神社でも何かイベントができないかと考えていたところ、会の協力者である浜松市在住の方が古本市を開催する団体を紹介してくださったそう。境内での古本市は大好評だったようです。
―榊原さんに伺います。今後、会と関わりを持ちたいという場合はどうすればよいでしょう。
「やはりファンとして、つまり関係人口として森町を訪れ、盛り上げていただけるとありがたい。もちろんスタッフや『町並みと蔵展』の出店者として関わっていただくこともできます。出店者の場合は、ただ商売のみを目的とするのではなく、主旨に賛同してくださる方に限定させていただきます」
―活動を通じて具体的なビジョンはありますか。
「森町の豊かな自然とすばらしい文化を、たくさんの方に知っていただくことが私の生きがい。これからも森町の魅力を発信し続けていきたいと思います」
―稲葉さんはいかがですか。
「歴史とは、継承するからこそ歴史になってくる。ですから若い人たちへ森町の文化を伝えていくことが必要なのだと思います。そんな思いもあり、中学生と高校生には『町並みと蔵展』にボランティアで毎回参加してもらっているんですよ。高校生は遠江総合高校の生徒が多いのですが、森町在住の子どもは3割程。7割は地域外からの参加となります。つまり生徒たちの多くは森町の関係人口なんです。遠江総合高校の先生方もとても積極的で、手伝えることがあれば何でも言ってくださいとおっしゃってくれるんですよ。こういうことをやりたいのですがと、先生からアイデアが出てくることもあります」
「そういうふうに若い人たちのセンスでいろいろな企画を実施していけば、また新しいファンが増えてくるわけだ」と榊原さん。
「それをきっかけとして新しい店や産業が興っていけばいいですね」と最後に稲葉さんが締めくくってくれました。