事例紹介
「熱海を怪獣の聖地に」! 映画関係者・ファン・地域で作る映画祭
文化・芸術・スポーツ活動団体 | 一般社団法人 熱海怪獣映画祭 |
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活動場所 | 静岡県熱海市 |
怪獣映画や特撮映画のロケ地として使われてきた熱海を「怪獣の聖地に」しようと活動しているのが、一般社団法人熱海怪獣映画祭です。
2018年10月に初めての「熱海怪獣映画祭」を開催。継続した活動を続けながら、2021年11月に「第4回熱海怪獣映画祭」を開催しました。回を重ねるごとに来場者や映画関係者、運営スタッフが増え、映画界からの注目も高まっているそうです。
今回は熱海在住で同団体の代表・永田雅之さんに、熱海怪獣映画祭のここに至る道のりや開催の苦悩・苦労、今後のビジョンを伺いました。さらに、熱海怪獣映画祭にボランティアスタッフとして参加するお二人の女性にもインタビューしました。
――伊豆山土石流災害の発生により、開催可否の判断を苦悩
2018年に1回目の熱海怪獣映画祭が開催されました。2019年4月には第2回を開催し、今後の継続的な開催を目的に法人化。一般社団法人熱海怪獣映画祭が生まれました。
3回目は2020年の秋に開催を計画しますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期を余儀無くなれ、感染症対策を万全に取った上で、2021年3月に開催しました。永田さんは「怪獣はコロナに負けない」という強い意気込みで開催の決断をしましたが、当時は批判や非難の声もあったといいます。
さらに7月3日には熱海・伊豆山で大規模な土石流災害が発生。永田さんは「怪獣が街を壊すような映画を上映する映画祭を開催すべきかどうか、毎日自問自答を繰り返しました」と当時を振り返ります。
それでも、「映画祭を行うことで元気な熱海を全国に発信し、熱海の街全体を盛り上げていきたい」と考え、予定通り11月に「第4回熱海怪獣映画祭」を開催するに至りました。
怪獣絵師として有名な開田裕治さんが描いたメインビジュアルは、海に立つ怪獣を中央に、背景にはMOA美術館、熱海城、伊豆山神社など熱海の象徴的な建物を配置しました。「怪獣が災害や感染症といった外敵から、熱海を守るために立ち上がっている様子が描かれています」と永田さんは説明します。
加えて、コロナで打撃を受ける映画関係者や、これまで熱海怪獣映画祭を支えてきたファン、運営スタッフからの後押しや応援の声が開催の原動力に。
映画祭の会場に設置された募金箱には、寄付する来場者の姿が見られました。
――毎回新しい企画を立ち上げ、すそ野を広げて交流を生み出す
熱海怪獣映画祭は、当時熱海在住で「ガメラ」などの脚本家・伊藤和典さんらで発起され、2018年の第1回の映画祭では、映画「ガメラ2」の上映、特技監督・樋口真嗣と伊藤さんのトークショーが行われました。
2019年の2回目以降、永田さんが加わり、次々と新たな企画を立ち上げて開催規模も内容もスケールアップしていきました。
第3回の熱海怪獣映画祭は、国際観光専門学校熱海校でウルトラマンやゴジラなど特撮映画の上映に加え、ホテルニューアカオで「ゴジラ伝説」と題したコンサートを開催しました。コンサートは、熱海出身の音楽家・井上誠さん、熱海在住の音楽家・巻上公一さんらとともに、熱海の合唱団「SoulWings」により「キングコング対ゴジラ」の演目を披露し、会場を大いに盛り上げました。コロナ禍ということもあり、新たな試みとしてライブ配信を同時に行うことで、熱海に行くことができないファンにもコンサートのライブ感を届けました。
全国の子どもも参加できる「新怪獣お絵かきコンクール」、熱海市内の飲食店が参加する「怪獣コラボメニュー」など関連企画も充実させ、映画祭のすそ野を広げていきました。
4回目となった今回の熱海怪獣映画祭では、新企画「熱海怪獣市場(しじょう)」を立ち上げました。全国の怪獣クリエーターの作品を展示・販売する同人イベントです。永田さんは「怪獣や特撮に特化した同人イベントは全国でも珍しい。クリエーターの皆さんが参加して作品を披露する場を提供することで、ファンとの新たなつながりができればと思い企画しました」と説明します。
実際に会場を訪れると、出店するクリエーターと来場者の交流が生まれている様子が見て取れました。マレーシアから出店したゲームメーカーの姿もありました。
このほかにも、熱海怪獣映画祭がきっかけで、熱海を舞台に映画撮影が頻繁に行われるようになってきています。その完成した映画の上映会には、撮影に協力した地元の有志らに加え、県外からも多くの人が観覧に訪れて、活況を見せています。
――特撮や怪獣映画好きのボランティアスタッフに支えられるイベント
熱海怪獣映画祭は、ボランティアスタッフが準備や設営、運営を支えています。スタッフの募集には「SHIZUOKA YELL STATION」も活用し、第4回の映画祭には「SHIZUOKA YELL STATION」経由で3人のスタッフが参加したということです。
そのうちのお一人、焼津在住の紅林千穂さんは、学校で学んだデザインの知識を生かして、映画祭のチケットやパスカードの制作、運営のサポートを行いました。紅林さんは「特撮が好きだけど、地元の友人に同じ趣味の人がいません。募集を見てすぐに応募しました」と話します。「熱海は母が昔住んでいた思い入れのある場所。焼津も港町ですが、焼津とはまた違う魅力を感じました。観光の街なので、外から来た人に対してもウェルカムな雰囲気があります。地元の焼津もそういう空気感になるように、地元に貢献したいという思いが強くなりました」と笑顔で話していました。
さらに、映画祭がきっかけで伊豆に移住してしまった女性もいます。東京でヒーローショーのMCをしていた、かんなみまどかさんです。かんなみさんは縁あって第1回の熱海怪獣映画祭のMCを務め、そこからずっと映画祭のMCや運営に携わっています。かんなみさんの出身は熱海に近い駿東郡清水町で、移住者が多く新しいことに寛容な熱海に住みたいと思っていたそうです。実際に、今年5月に川崎市から熱海の隣、伊豆の国市に移住されました。
「縁がつながって映画祭に関わり続けられています。映画を制作した関係者や登壇者の生の声を聞いて、楽しんでもらえたら」と呼び掛けています。
――怪獣映画を熱海から世界へ
1回目の熱海怪獣映画祭に動員した観客は300人ほどでしたが、第4回の映画祭は3日間で500人以上を動員。加えて、映画関係者や出店者が100人ほど。27人のボランティアスタッフも運営に携わったそうです。
5回目の開催日は未定だそうですが、また熱海怪獣映画祭を開催するときには、特撮や怪獣映画ファンはもちろんのこと、映画やまちづくりに興味があるような幅広い人たちにも参加してほしいそうです。永田さんは「熱海は昔から多様性の街です。これまで温泉や旅行に興味がない人たちにも映画や怪獣を切り口に熱海の情報が届き、さまざまな人たちが熱海とつながってくれることを期待しています」といいます。
永田さんの夢は「熱海を日本のハリウッドにすること」。
熱海で「怪獣の聖地」の息吹を感じてはいかがでしょうか?