事例紹介

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熱海の活性化を起点に地域の課題を企業と解決

まちづくり
熱海の活性化を起点に地域の課題を企業と解決
活動団体 株式会社machimori
活動場所 熱海銀座エリア

『100年後も豊かな暮らしができるまちをつくる」というテーマを標榜し、2011年に熱海で株式会社machimoriが設立されました。発足したのは、代表を務める熱海出身の市来広一郎さん。生まれ育った熱海商店街の活気が無くなってしまっていることを危惧し、2008年にNPO法人atamistaを立ち上げ、まずは熱海に住んでいる人や別荘で暮らしている人々に対して、熱海での暮らしの満足度を上げていくことから着手していきました。熱海商店街の活性化事業をきっかけに、地域で暮らしていると気づけない地域の良さを事業に参加している地域外の参加者に発見してもらいながら、地域の課題を解決する取り組みを開始しました。今回はmachimoriが運営しているコワーキングスペース「naedoco」で、伊奈沙織さんにお話を伺いました。

3つの事業を軸に地域を活性化

3つの事業を軸に地域を活性化

2011年の発足当初は、熱海銀座商店街の活性化のため、『リノベーション』を主体とした事業を展開していました。具体的には、2012年に取り組んだ『RoCA』という店舗のリノベーションです。

発足してから10年以上が経過した現在では、商店街活性化を目的とした『リノベーション』を軸に、『創業支援』や『企業連携』という3つの事業に取り組んでいます。取材に伺った時も、熱海商店街の『guest house MARUYA』のリノベーションの真っ最中でした。

リノベーション事業以外に、『創業支援』は、地域課題を解決するために新規事業を作る環境を体験することで人材を創っていくことが目的。熱海市と2016年頃から3年間取り組んできている活動です。

今回取材する、熱海市のモデル事業は『地域課題を題材とした企業研修プログラム導入拡大のためのトライアルプログラム』というタイトルで、3つ目の『企業連携』の軸となる活動です。どのような形で、企業連携を実践しているのか、お話を伺いました。

モデル事業「地域課題を題材とした企業研修プログラム導入拡大のためのトライアルプログラム」とは?

モデル事業「地域課題を題材とした企業研修プログラム導入拡大のためのトライアルプログラム」とは?

machimoriが実践するこのモデル事業は、『課題対象となる地域外の企業の社員が、地域の課題解決に向け、検討し提言する体験を提供する』という内容です。

多くの企業がCSRやSDGsなどに関心を寄せているものの、企業側で具体的にCSRやSDGsをどのように取組んでいくべきか未だ確立されていない状況が多いようです。このような企業に対して、machimoriの役割は、地域の課題解決を関連企業と考えることを通じて、参加企業社員が、課題解決能力のスキル習得をできる支援を目的としています。参加者は、所属している企業とは別観点で実際の地域課題を検討・解決することにより、課題解決能力を身に着けることに加えて、地域貢献やそこから自身のキャリア形成ができるようにmachimoriがプログラム開発しています。このプログラムに興味を持ち、参加する企業が増えているとのことでした。

2021年度にモデル対象地域となったのは、『熱海市網代地区』と『富士市吉原地区』の2箇所。

5ヶ月のプログラムを2ヶ月で実施

5ヶ月のプログラムを2ヶ月で実施

今回はmachimori側で、熱海市網代地区の【防災】、富士市吉原地区の【中心市街地の再生】をテーマに設定し、参加者2チームに分かれて課題を検討しました。地域の課題と言っても多種多様な課題があり、地域外に住んでいる参加者は、与えられたテーマに対して、課題の特定をするのが難しかったようです。このため、課題の洗い出しについては、machimoriがサポートしたり、参加者に現地に赴いてもらったり、現地の住民にヒアリングしながら課題テーマについて検討を重ねていきました。2つのチームには、参加者以外にも共創パートナー(実際に地域で課題解決の活動をしている人)にも参加してもらい、対象の地域の課題の解決策を、プログラム参加者と地域の代表である共創パートナーが一緒になって検討しました。

各チームとも、メンバー内で特段の役割は無く、参加者それぞれの特性を活かしながらTV会議で地域課題の検討が行われてきました。プログラム期間中、参加者は、週1日程度の時間を割いて、TV会議による会議やインタビューを行いました。TV会議で何度も討議を重ねても、『百閒は一見に如かず』。課題を解決するのに何よりも役立ったのは、『現地に赴くこと』でした。現地の方と会話をしたり、課題地域を体感することで、テレビ会議で検討されていたことが、参加者の想定と全く異なることもあったり、行ってみなければ分からなかったことが多々あったりしたという、参加者からの生の声があったそうです。現地の方と触れ合うことで、より地域に親近感が湧き、地域への興味も深まって行く。これが、関係人口のビジョンに繋がっていくと伊奈さんが話してくれました。

企業にいると、自社の商品を作ることが主体となっており、企業の社員が現場やユーザーの声を直接聞く機会が限定されてしまっている状況です。今回の活動を通じて、自分たちが考えている事とユーザーの声に乖離があり、乖離を埋め合わせるためにどうすべきか?現地に赴き自分の目や耳で課題を感じ、体験をすることで、課題解決方法の考え方を身につけていきます。

本来は、5ヶ月程度を要するプログラムを、このモデル事業では、2ヶ月という短期間でトライアルしました。

このプログラムが終わるころには、参加者は、課題解決のソリューションのスキルが自ずと身につくようにプログラムを日々改善しているとのこと。見知らぬ土地の課題を見知らぬ人々と検討を重ねる経験を創出できることが、企業にとっては、人材育成の観点では魅力的なプログラムのようです。

地域外から見た地域の魅力の発見。課題解決から愛着ある地域へ

地域外から見た地域の魅力の発見。課題解決から愛着ある地域へ

参加者は、このプログラムの中で、何回も課題地域に赴きます。最初は、課題を実際に確かめる目的で訪問することが多いようですが、地域の人々、自然環境、歴史に何度も触れることで、自ずと地域に愛着がわいてきます。熱海は、観光地としては有名な場所の一つです。このプログラムを通じて、machimoriでは、テーマとなった地域が本質的に抱える課題も分かってもらいながら、地域に愛着を持って欲しいと考えているとのことでした。

観光地としての有名な熱海市にある網代地区、地方都市の富士市にある吉原地区に触れてもらうことで、地域は、参加者から気付けなかった地域の魅力を教わり、参加者は、縁もゆかりも無い地域のことを考えることで、地域との縁を構築し関与してもらうためのきっかけを作っていく。このきっかけ作りをmachimoriではプログラムを通じて実践しています。

熱海市網代地区の漁港
富士市吉原地区の商店街

縁もゆかりもない場所とのつながりから関係人口の接点を作る

machimoriでは、自主的な企業セミナーや個別面談などを通じてこの事業展開をしています。普段、企業の中しか見ることができない企業人もこのプログラムでは、それまで縁もゆかりも無い地域のことを見ず知らずのメンバーと考えます。日々の業務の傍ら3日に1回ほどのペースで、TV会議に参加しながら自分の本業とは異なる地域の課題を、メンバーと考えていきます。課題解決方法を検討していくプロセス・体験は、企業も人材育成の一環として注目しているようです。

また、地域課題の検討を重ねる過程で課題対象地域に愛着が沸き、プロジェクトが終わっても何度も対象地域を訪問することにより、関係人口にも寄与することも考えられます。

『この二つのプログラムを通して、参加者が、観光地以外の熱海と富士市吉原の商店街を知ってもらえたことが良かったです』と笑顔で話をしてくれた伊奈さんが印象的でした。

▼報告会動画

▼株式会社machimori(当モデル事業の中間支援組織)
https://shizuoka-yellstation.com/group/d062

▼NPO法人東海道・吉原宿(当モデル事業の地域づくり団体)
https://shizuoka-yellstation.com/group/d028