事例紹介
沼津からオーガニックの裾野を広げる。NPO法人あしぶね舎の挑戦
環境活動団体 | NPO法人あしぶね舎 |
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活動場所 | 静岡県沼津市等 |
オーガニック食材やオーガニック製品など、オーガニックは私たちの生活に身近な存在となりました。オーガニックとは、日本語で「有機の」という意味の言葉。自然の恵みを活かした、人にも環境にもやさしいものです。
沼津市で活動するNPO法人「あしぶね舎」は、イベントや地域の子どもたちに向けた活動を通し、オーガニックの魅力を広く伝えています。今回は同団体の活動について、理事のイシオユキさんにお話を伺いました。
イシオ ユキさん(写真左/あしぶね舎 理事)、山本 広気さん(写真右/あしぶね舎 代表)
オーガニックの魅力を伝える団体
あしぶね舎は2020年設立のNPO法人。現在は総勢5名のメンバーを中心に活動しています。「日々の生活にもっとオーガニックを」という考えに基づき、有機製品の普及事業を展開しています。
イシオさん「その他にも静岡オーガニック情報サイト『ナチュカル』を運営しています。同サイト内の『ORGANIC MAP IN SHIZUOKA』では、県内のオーガニックなお店やマーケットを約150店掲載しています」
種から育て、次へつなぐ。伊豆大豆の有機栽培授業
▼オーガニック大豆を伊豆の国市の小学生と育てる授業
https://youtu.be/swLmt8nu3eE?si=KpbXSqEuVrS847Z5
あしぶね舎は、食育に関する地域活動にも積極的です。2022年には、伊豆の国市とのパートナーシップ事業を締結。「タネから始まる持続可能な地域づくり」として、伊豆の国市内の小中学校を対象に、タネから大豆を育てる授業をスタートさせました。
イシオさん「地域固有の在来種である『伊豆大豆』を無農薬、無化学肥料で育てる取り組みです」
この授業の教室は、畑と家庭科室。まずは畑へタネをまき、夏には育ったものを枝豆として楽しみます。その後、立ち枯れさせたものを大豆として収穫し、豆腐や味噌に加工。子どもたちはタネを植えるところから、収穫・加工・調理まで、人が大豆を食すまでのすべてのプロセスを経験します。
イシオさん「味噌は完成まで時間がかかるので、翌年の家庭科の授業で、お味噌汁として食べてもらいます」
授業の講師を務めるのは、地域の方々です。
伊豆大豆を専門に育てる伊豆大豆プロジェクトさんや地域の農家さんのサポートに加え、農業・環境・健康研究所の方による「土の授業」もあります。子どもたちは大豆ができるまでの過程を時間をかけて体系的に学習することで、環境への理解を深め、有機そのものを学べるのです。
この活動は、「子どもたちへの食育」という領域を超え、地域活性化にもつながる可能性を秘めています。
イシオさん「『タネから始まる持続可能な地域づくり』というプロジェクト名にある通り、食育と地域活性化を通して、持続可能な地域づくりを目指せる施策だと考えています。この活動がきっかけとなり、地域の学校給食にオーガニック食材が使われるようになるかもしれません。美味しい野菜を食べられれば子どもたちもうれしいし、作り手である生産農家さんもうれしい」
学校給食など地産地消の道すじが見えることで、生産農家は作付計画ができます。消費が増えることで、「伊豆の国市で農業がしたい」と考える県外の新規就農者も増えるかもしれません。イシオさんは「この循環が続いていけば、空き家問題や耕作放棄地問題など地域課題の解決の糸口になると思っています」と語ります。
5000人が集まった静岡オーガニックフェスティバル
「団体設立のきっかけは、2018年に初開催した『静岡オーガニックフェスティバル』です。 “オーガニック”をキーワードに皆さんが集う、お祭りですね」
「静岡オーガニックフェスティバル」は、2018・19年に開催された大規模屋外イベントです。会場である沼津市愛鷹運動公園には、静岡県内のオーガニックに関するお店や生産者ら100店舗以上が出店。その他にもワークショップや講演、ステージパフォーマンスなど盛りだくさんのプログラムでした。
イシオさん「両年とも1日限りのイベントでしたが、5000名以上の方が集まりました」
イベントのテーマは、「つながる」(18年)、「つなげる」(19年)。
イベントを通してオーガニックの魅力に触れられるだけでなく、「生産者と消費者」や「オーガニックに関心がある消費者同士」など、イベントの参加者たちがつながりを感じられるひとときでした。
また、同イベントは親子で参加する方も多かったそうです。
イシオさん「家族みんなで芝生の上でお弁当を食べたり、子どもたちが落ち葉のプールや竹のジャングルジムで無邪気に遊んだり。皆さん、“ここがリラックスして楽しめる空間だ”と感じていると一目でわかる表情でした」
イシオさんは当時を振り返り、「ベビーカーを引きながら『また来年も開催してください!』と帰っていったお母さんもいましたね」と笑顔で語ります。
“オーガニック”をキーワードにつながりの輪を築く
「静岡オーガニックフェスティバル」はコロナ禍の影響で次の開催を見送っていましたが、2023年12月に3回目の開催が決定。イシオさんは「せっかく静岡県まで来るなら、オーガニックフェスに止まらない楽しみ方をしてほしい」と言います。
イシオさん「今回は初の2日連続開催なので、『1日目はオーガニックフェス、2日目は伊豆』というふうに、他のスポットも一緒に回れます。県内を楽しむ選択肢の幅も広がると思います」
過去の2回は、県外から参加する方もいました。このことに対しイシオさんは、「オーガニックをキーワードに、色々な方とつながれる場所ですから」と胸を張ります。
イシオさん「オーガニックフェスには、県内の農家や小売店、(工芸品等の)作り手など、さまざまな方が集います。静岡県内のオーガニックに関するつながりは、衣食住すべて網羅していると言っても良いほど。県内に移住を考えている方がいたとしても、『何も心配いらないですよ』と言えますね」
いつか咲かせたい “オーガニックの花”
今年の「静岡オーガニックフェスティバル」にも、県内外から多くの来場が期待されます。また、サポーターやボランティアも広く募集しているそう。イシオさんは県外の方に向けて、「参加者の皆さんがオーガニックフェスで受け取ったタネを各地域に持って帰って植えてほしい」と言います。
イシオさん「ここで言う“タネ”とは、“皆さんのオーガニックフェスでの経験や感じたこと”という意味です。沼津にあしぶね舎があるように、きっと皆さんの地域にもオーガニックの知識を欲している方や発信したいと思っている方がいるはずです。皆さんが各地にタネを持ち帰り、水をあげれば、必ず芽が出ます。私たちの活動がきっかけとなり、いつか全国各地にオーガニックの花を咲かせたいですね」
[第3回 静岡オーガニックフェスティバル]
日時:2023年12月16日(土)、17日(日)9:00~15:00
場所:沼津市愛鷹運動公園自由広場(静岡県沼津市足高201−1)
主催:NPO法人あしぶね舎
(文・写真)静岡県関係人口ライター