事例紹介

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風光明媚な富士のふもと。 恵まれた自然資源を活用し、古里を盛り上げる。

まちづくり
風光明媚な富士のふもと。 恵まれた自然資源を活用し、古里を盛り上げる。
活動団体 NPO法人 あさぎり古里創生ネット
活動場所 静岡県富士宮市

まさに、風光明媚。霊峰富士のふもと、朝霧高原の西に広がる静岡県富士宮市猪之頭地区は、湧水に育まれた自然豊かな古里。今回は、この美しい地を拠点に地域振興や環境保全に取り組むNPO法人「あさぎり古里創生ネット」にお邪魔しました。

迎えてくださったのは設立メンバーであるとともに会の重鎮、佐野義男理事長と福井光政事務局長。まずは設立のきっかけを事務局長に伺います。

 

「猪之頭学区と呼ばれるこの地区(猪之頭・麓・根原・富士丘)もご多分に漏れず少子高齢化が進み、残念ながら徐々に活気を失いつつあります。そこで、なんとか地区を盛り上げていこうと有志とともに2012年に本NPOを設立。以来、様々な活動に取り組んでいます」

現在、メンバーは20名ほどで年齢層は20〜70代。最近、ホームページを見て東京と神奈川から20代の女性2名が新たに入会されたとのこと。

 

バラエティに富んだ活動で、地元の魅力を再確認

活動内容を伺うと、なるほど体験してみたい企画がずらり。ミツバツツジの植栽や茅刈り・茅葺き体験、わさび田の再生、住民参加のあさぎり芸術祭、きのこ狩り、ニホンミツバチの里づくりなど実にバラエティに富んでいます。普段の生活では経験できないものばかり。現在、いろいろな体験に価値を求める「コト消費」、さらにその日、その場所、その時間でしか体験できない「トキ消費」が新しい消費行動として注目されていますが、あさぎり古里創生ネットの活動は、まさに「コト」、「トキ」の宝庫ですね。

 

バラエティに富んだ活動で、地元の魅力を再確認
バラエティに富んだ活動で、地元の魅力を再確認
ミツバツツジの植栽。毎年、地元の小・中学生も参加 / 9月上旬に行われるわさび植え付け
昨年からスタートしたニホンミツバチ復活プロジェクト / あさぎり芸術祭は今年10周年。老若男女で賑わいます

「活動の種類としては、地域振興、学術・文化・芸術及びスポーツの振興、環境保全、観光振興がメインになりますね。関係人口に関わるイベントとしては、茅刈り・茅葺き体験があります」と事務局長。

茅刈り・茅葺き体験の具体的な内容を理事長にお尋ねしました。

「朝霧高原に、国内の文化財用に供給している茅場があります。そこでは秋から冬にかけて

茅刈り講習会と茅葺き講習会をそれぞれ2日間開催します。主催は朝霧高原活性化委員会という、本NPOも所属している組織です。開催以来、ずっと東京農大の学生さんが参加してくれています」

朝霧高原活性化委員会は、茅場の保全を目的に設立された任意団体とのこと。茅刈り及び茅葺き講習会の参加者はそれぞれ毎年15名程度。東京農大の学生の他に、東京や神奈川から古民家継承に興味のある方が参加してくれるそう。さらにスタッフとして、山梨県にある茅葺き職人の会社やNPOの協力も得ています。

「茅刈り体験は特に多くの方が参加してくれますよ。30名ほど集まったこともありました。茅刈り体験ではね、2日間の講習と実技を経て、簡単な試験に合格すると『茅刈り人』に認定され赤いキャップがもらえるんです。朝霧高原の茅を刈る資格を得られるんですよ」

 

赤いキャップが「茅刈り人」の証 / 茅刈りを体験したら、もちろん茅葺きも

地域が抱えるジレンマと葛藤

おそらく人生でそれほど茅を刈る機会はないだろうけれど、「茅刈り人」の資格と赤いキャップが欲しくなりました。このように興味深いイベントを数多く実施されているのにもかかわらず、実はホームページ以外ではあまり参加者募集告知をしない。その理由を事務局長に伺ってみました。

「正直なところ、人員的な問題で、一度に多くの方を受け入れる体制づくりができないんですよ。現在、それが大きなネックとなっています。メンバーも高齢化が進んでいますし、外部からスタッフを募ると経費的な問題も発生します。そのため、大きく発信・展開していくことが難しいんですね」

なるほど。そういうジレンマもあるのですね。事情を知ったうえで、あえてお尋ねします。

―地域振興という面から考えると、地元以外からもたくさんの人に参加してもらったほうがいいと思うのですが。

「それは当然、活性化に繋がると思います。ただ増やせないもうひとつの理由として、観光地化したくないということがあります。多くの人が一斉に入ってきた場合、この美しい自然を守ろうという本来の私たちの目的と逆行するリスクもあります。ですから、それについては何とも言えません」

確かにそうですね。場合によっては本来の活動方針と相反することも。事務局長が続けます。

「私たちのNPOは、昔ながらの生活技術の継承を目的として体験や学びの機会を提供しています。それを広く発信していただけるという点では、関係人口を増やす意義があると思っています」

「関係人口は増やしたい。ただ大切なのはバランス。バランスの問題ですよね」と理事長。

「将来を見据え、関係人口の方々との繋がりや応援を大切にしながら、外に出ていった若者が再び戻ってきてくれるような魅力的な古里づくりに取り組んでいくことが大切なんですよ」

―そういう意味では、やはり地域の魅力発信は重要ですね。事務局長、いかがですか。

「関係人口の皆さんのお力をお借りしながら、世間に注目される古里になれたらいいですね。それにより出身の若者が猪之頭学区の良さを再認識し、戻ってくれたらありがたいですよ。ただ住民の高齢化によって、関係人口を増やすための体制が整わない。今は高齢者どうし、村づくりをしながら助け合い、共に生きる地域を作ることが優先されます。昔ながらの共助の生活をまずは考えていかなくてはならないのが実情なんです」

 

関係人口ライターとしてまだまだ日が浅い私。今回の取材で、地域が抱える悩みとジレンマを目の当たりにしました。関係人口を増やしたいけれど、そうもいかない様々な事情。貴重なお話を伺えたと同時に、考えさせられる取材でした。今回、この記事をご覧頂いた皆様が、少しでもあさぎり古里創生ネットの活動に興味を持って頂けたら幸いです。

佐野理事長、福井事務局長、ありがとうございました。

 

地域が抱えるジレンマと葛藤
左から佐野理事長、福井事務局長、そして本田副理事長

■NPO法人あさぎり古里創生ネット

https://npo-asagiri.net/

 

 

(文・写真)静岡県関係人口ライター