事例紹介
外からの視点で気づいた新たな価値。プロジェクトの成功の秘訣は相互に幸せであること。
まちづくり活動団体 | NPO法人ESUNE |
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活動場所 | 静岡県 |
2013年、大学生と若手社会人を中心に立ち上げたNPO法人ESUNE。あらゆる主体と連携・協働したさまざまなプロジェクトの創出、コーディネートを通じて、一人ひとりが持つ可能性と、あらゆる組織が持つ可能性を引き出し、未来社会を想像・創造することをミッションにしています。
ふじのくに関係人口創出・拡大モデル事業(以下、県の事業)で取り組んだ「ふじのくにに新しい風景を。新風景のつくり手・支え手プロジェクト」の中でも、大きな成果をあげた「むかし田舎体験 水車むら」の取り組みについて、副代表の斉藤雄大さんにお話を伺いました。
「人」に関わるさまざまな事業を展開
ESUNEは「人と組織の可能性をひろげ、未来をつくる」をミッションに、大きく分けて3つの事業を展開しています。志と想いのある人を組織につなぐ人材コーディネート事業、組織の中から火を起こす教育研修事業、若者の一歩を共につくるユースセンター事業です。
今回、県の事業で取り組んだプロジェクトは、この中の人材コーディネート事業にあたると斉藤さんは言います。「人材コーディネート事業では、首都圏など静岡県外に在住し、働きながらローカルへ関心がある兼業者や、新しいチャレンジの機会を求めている大学生を組織につなぎ、事業課題や経営課題に挑戦していただいています」。
ESUNEはこうした課題をプロジェクト化し、人とつなぎ、プロジェクト推進を伴走支援しています。さまざまな挑戦から得たネットワークや経験値を生かし、今回のプロジェクトに取り組んでいます。
関わり方にグラデーションを持たせてプログラムを展開
「ふじのくにに新しい風景を。新風景のつくり手・支え手プロジェクト」では、「地域のことに興味はあるが、どうしたらいいかわからない」という20代から40代の社会人や大学生を対象に、プロジェクトに参画するメンバーを募集しました。
自分自身のこれからの生き方や働き方の意味を模索し、挑戦と内省をする働き手に、地域づくり団体で活動する機会を提供するプラットフォームを目指しています。
注目すべきは、本プロジェクトの対象者の関わり方に、グラデーションを持たせていること。ゆるく知ることからはじめたい人、イベントなどを通して短い時間でも関わりたい人、がっつり関わりたい人、この3パターンのニーズがあると仮説を立てて取り組みをしました。
「具体的な取り組みとしては、関わり方のニーズ別に3プログラム用意しました。
まず、ゆるく関わりたい人向けに、オンライントークイベントを実施しました。県内で地域作りに携わっている人を講師として招き、少人数でじっくり話をするといった内容で、これまで60名以上のワーカーが参画しています。また、LINEオープンチャットを利用したオンラインコミュニティを開設し、40名以上が参画しています。
次に、短い時間でも地域の取り組みに関わってみたい人向けに、1Dayプロジェクトチャレンジを実施しました。地域で活動している団体の課題をプロジェクト化し、その課題について自身の知見やスキルを生かして提案書を作成するといった内容です。ほかにもイベント参加やボランティアスタッフなど、さまざまなパターンの1Dayの取り組みを実施しました。
最後に、がっつり関わりたい人向けに、長期プロジェクトチャレンジを実施しました。「むかし体験 水車むら」に3名、「認定NPO法人WAKUWAKU西郷」に2名が参画しました。それぞれの団体と参加者が、4〜5ヶ月かけて、新規事業の開発やメディアへの取り上げなどのプロジェクトを実施し、プロジェクト終了後も継続的な活動が行われています」。
長期プロジェクト「むかし田舎体験 水車むら」の事例
2021年9月3日にスタートした「水車むらプロジェクト」。立ち上げのきっかけは「むかし田舎体験 水車むら」の代表を務める保志さんからの相談でした。
過疎化の一途をたどっている中山間地域の瀬戸谷地区。築250年の農家の母屋で、昔ながらの田舎体験ができる観光事業を行っているのが「むかし田舎体験 水車むら」です。保志さんが有志グループのメンバーと再生活動をする中で、子どもたちに昔ながらの田舎体験を提供しています。
「休日や夏休みシーズンは、県内の家族連れの利用などでほぼ満席となりますが、平日や冬場はあまり予約がなく、『平日や冬場だからこそできる企画を生み出せないか?』という課題を抱えていました。
そこで、平日・冬場の訪問が少ない期間の企画を中心に、水車むらや瀬戸谷地区の魅力を活かした、ウィズコロナ時代の田舎体験の企画を共につくってくれる仲間を募集しました」。
ESUNEが静岡エリアパートナーを担う「ふるさと兼業」でメンバーを募集したところ、4名が応募。「ふるさと兼業」とは、愛する地域や共感する事業にプロジェクト単位でコミットできる兼業プラットフォームです。プロボノや兼業、パラレルキャリアという言葉が当たり前に使われはじめるなか、都会で生活しながら地域に関わる、大手企業で活躍しながらNPOや中小企業、ベンチャー企業に関わる、そんな新たな選択肢を提案しています。
実際にこのプロジェクトに参画したのは3名です。うち1人は、東京都在住の30代の女性で不動産関係会社員。静岡県藤枝市で生まれ、祖父母の家があったことから、大学までの間毎年来訪。藤枝の魅力を世の中に発信したいと参加を希望されました。
2人目は東京都在住の30代の男性で保険会社社員。プロジェクトのシチュエーションの魅力を感じて志望。
3人目は愛知県在住の20代の女性で大学生。藤枝市の中山間地域にある祖父母の家をよく訪れていたそう。大学で地方創生やまちづくり論を専攻。地域の発展に貢献したいと静岡へのUターン就職も選択肢に入れています。
具体的な内容について、「まずはキックオフミーティングをオンラインで行い、代表の想い、今現在の水車むらの事業内容や課題について理解を深めてもらいました。その中から課題を設定して解決策を検討。その後、水車むらに足を運んでもらい、田舎体験をしてもらいました」。
すると、藤枝が首都圏から日帰りで帰れる場所であること。また、体験そのものが大人でも楽しめることを実感。そこで、クリエイティブな発想が求められるビジネスパーソン向けのプランとして「五感を刺激する古民家ワークスペース」を立案しました。薪割りやヤマメの掴み取り、かまど炊飯体験などで、五感を刺激して脳を活性化。昼食後は囲炉裏を囲みながらクリエイティブな発想を生み出すといった内容です。
「実際に体験モニターを募集し、東京の広告代理店の皆さんにトライアルで体験していただきました。トライアルの結果をはじめ、SMOUTというサイトを使った意見交換のイベントを通してプラン内容をブラッシュアップ。完成に漕ぎ着けました」。
この取り組みは「にっぽんの宝物 静岡大会 2021-2022」モノ&コト部門でグランプリを受賞。「ビジネス利用への展開が興味深く、 現実のビジネスユースを考えて構築しているのが素晴らしい」 といった点が評価されているようです。
今回のプロジェクトで得たことについて、斉藤さんは「外からの視点によって、新たな価値を見出せたことです。参加した三人がいなかったら、プロジェクトの成功はあり得ませんでした。また、彼ら自身もこうした活動を欲しています。あくまでプロボノなので金銭的報酬は発生しませんが、自分の成長になるなどの意味的報酬が対等に成立すれば、成果は出せるという手応えを感じました。関係人口と地域住民が相互に幸せであることが、成功の秘訣かもしれませんね」。
今後の課題については、「まだまだ利用者数が少ないのが現状です。プロモーションや情報発信を通して集客を図り、利用者の意見を聞いて改善を重ねていきたい。また、今回のメンバーにファシリテーターとして参加していただくといった派生プランも考えています。商品の価値を上げていきたいですね」と抱負を語ってくれました。